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かつて映画監督は「女になれない職業」だった。74歳、女性監督の足跡と信念

「夢やカスミで人は生きていけない。職業は、私にとって生きることそのもの。だから職業と答えているんです。特に今の時代、デジタルで誰でも映像作品は撮れる。映画監督と誰もが名乗れる。でもそれとは違う自負心です。その道一本で生きていくのは大変ですよ。それでも私は壁を壊しながら、プロの映画監督として生きてきた。プロの映画監督しか、私には選択肢がなかったんです」

いちばんが好き、前例は自分で作る

思い通りにいかないこともあったし、リタイアした時期もある。それでも彼女が負けてたまるかと映画の道を歩き続けたいちばんの原動力は「他に女の監督がいなかったから。誰もいないところにいちばんに乗り込んでいくのがおもしろかったから」だ。 浜野佐知インタビュー202301-1c「命かけてもやりたいことを見つけなかったらつまらないじゃない? もともといちばんが好きなのよ(笑)。指定席をとっていてもいちばんに並ぶタイプ。前例のないことをやりたい。そのほうが自分の判断ひとつでものごとを変えられるから」 ピンク映画に飛び込んだ最初の女性スタッフであり、女性監督であり、自らの制作会社を作った最初の女性社長でもある。浜野監督のピンク映画は人気を得て、旦々舎の制作本数は年間20本にものぼった。 「私は段取りとカット割りが趣味なんです。プロデューサーをかねているから、映画を撮る段階で、すべてのスケジュールとカット割りが頭に入っている。いつも考えているのは、映画監督って偉そうに聞こえるけど、実際は逆三角形のいちばん下にいるんです。映画に関わるすべての人、小道具のひとつひとつに対しても、すべての責任を負うのは監督。だから相手の心に伝わるような言葉で話し、心に伝わる態度をとる。裏切ってはいけないと思っています」

男の監督に女性の体はわからない

現場の雰囲気は映画に映り込むと彼女は信じている。だから全員が一丸となってモチベーションを保てるように心を砕く。撮影期間、彼女は誰よりも最後まで現場にいて、助監督より早く現場に入っている。すべてのリスクは自分で背負うと決めているからだ。 「ピンク映画を撮り始めたときに私が思ったのは、女の性を女の手に取り戻すこと。ピンク映画はどうしても男性の観客が多いけど、それでも映画の中で女性に主導権を握らせたかった。それまでのように男が突っ込めば女は喜ぶみたいなものは作りたくなかった」 彼女のピンク映画では、女性が自ら性を求める。そして彼女は女性の体のパーツをドアップで撮った。 「女の体はきれいでしょ、と見せたかった。男の監督は遠慮するからドアップで撮れないんですよ。私は乳首の先のつぶつぶや、Tバックからはみ出す陰毛もドアップで撮った。セックスだってピンク映画はあくまでも疑似ですからね、腰振ったってAVの迫力にはかなわない。だからピンクでしか表現できないエロを描きたかった。前戯を中心に触れられて愛されることで、女性の体が弾けていくところを見せた。男の監督に女性の体はわからないんですよ」 それが男性客にも受けたのだ。してやったりと思ったことだろう。浜野監督のピンク映画を観る女性グループもできた。 「生きる上で、エロスは重要だと思う。なくてはならないものでしょう、なかったら楽しくないもの」 ――浜野さんにとってのエロス、それも女性のエロスとは。後編でさらに詳しくうかがう。 <写真・文/亀山早苗>
亀山早苗
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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