そこから夫の暴力が始まった。殴っては謝り、妻にすがりついて泣く。だが一度始まった暴力は止めようがなく、エスカレートしていくばかりだった。
「私は実家が遠方で、しかももう両親がいないんです。実家には親戚が住んでいます。ひとりっ子だったし、私は大学時代から東京住まい。
戻るところがない。夫から逃げたくても行く当てがない。
夫にぶたれて思わず外に飛び出したけど行く場所もなく、夜の町をさまよったことがあります。私は誰にも必要とされていない。
でもそのときお腹に異変を感じて。子どもが蹴ったんです。どんなに暴力をふるわれてもお腹の子は元気でがんばってくれた。この子だけは絶対に産もう、そして夫と離れようと決意しました」

子どもの存在に助けられ、彼女は夫から逃げた。夫の親に連絡し、自身は会社にも相談、話をオープンにして周りの人の協力をあおいだ。親戚が不動産会社を経営している同僚から安心できるアパートを紹介してもらい、別の同僚からの「田舎から送ってきたけどお米、いる?」という申し出に頭を下げた。
「夫のDVから逃げまくる私を全面的に開示していました。一度、夫が私の勤務先に来たことがあるみたいなんですが、受付では『会社を辞めました』と言ってもらい、警備員が外に連れ出してくれたそうです」
夫の両親、特に義母は「
うちの子が暴力なんてふるうわけがない」と言っていたが、キミコさんが病院にかかったときの証拠写真を送ると、少し考えが変わったようだ。さらに夫はふたりで住んでいたマンションの家賃を滞納、保証人が夫の父親になっていたため、ようやく両親が上京してきた。
「私は夫に会うのが怖かったから、義両親とだけ会いました。彼らは夫の勤務先だった会社にも行ったそうで、やっと事態を正確に把握してくれた。
義両親も、けっこう高齢でしたから、事実を認めるのはせつなかったでしょうね」