「あるとき、私たちのことが社内で噂になって、彼が『ミサトとつきあってるの?』とみんなの前で聞かれたんです。彼はつきあってるわけないじゃん、こんな鈍くさい女とって言った。照れてるのかなと思って彼を見たら、憎悪のまなざしで私を睨んでいた。私、そのまま倒れてしまったんですよ、社内で」
それが24歳のときだった。会社の医務室に親切な女性ドクターがいて、精神科医を紹介してくれた。
彼女は会社を辞め、アルバイトをしながら治療を優先させた。
「殴るのは愛情ではないということが、ようやくわかったのはそれから数年たってからですね。本当に吹っ切れたとは今でも言えないかもしれないけど、30歳くらいでようやく落ち着きました」
そこから人生をやり直している最中だとミサトさんは微笑んだ。ちなみに彼女の兄は、結婚したもののDVで離婚、その後はどこにいるかわからない。父はひとりで実家に暮らしているらしい。
「叔母によれば、母は元気でいるようです。私には申し訳なくて会えない、と言っているらしいけど、私は母には会いたい気もしています。もう少し時間が必要だとは思うけど」
彼女は精神が崩壊する前に自ら逃げた。それでも長年、苦しんできた。肉体的・精神的暴力は、体のケガの有無に関係なく人の心を殺してしまう。大人の都合で暴力をふるわれた子の心は、生涯、傷ついたままなのかもしれない。
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<文/亀山早苗>
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