「お腹がすいたと言ったら、父からビンタが飛んできてびっくりしたことがあります。それを見ていた兄も、私を殴るようになった。
今思えば、ふたりのストレスのはけ口になっていた。兄は兄で、母親が急にいなくなったことを友だちに指摘されてつらい思いをしていたようです」

とはいえ幼い少女を、父と兄が殴りつけながら生活するのは異常である。親戚や近所の人など、誰か気づかなかったのだろうか。
「
ふたりとも洋服で隠れているところを殴るから、誰にもわからない。夏のプールは、父が入らないでいいと水着も買ってくれなかったから入れなかった。学校からの呼び出しには父が応じていました。『母親がいないから、娘の性格が変わってしまって』と先生に言っていたようです。一方で兄もクラスで浮きまくっていたらしいので、父はそれにも対応はしていた。そうやってストレスがかかると私への暴力がまたひどくなる」
小学校高学年になると、ミサトさんは料理をするようになった。父も兄も、ミサトさんの作る料理を食べているくせに彼女に暴力をふるった。中学に入学したあと、彼女は母の妹である叔母の家に逃げた。叔母は彼女を抱きしめてくれたが、「
うちに置くわけにはいかないの、ごめんね」と別の親戚の元へ連れて行ったという。
親戚をたらい回しにされ、やっと落ち着いたのは母の従姉妹のさらに親戚の……と、遠い親戚のもとだった。
「もうどんな続柄かもわからないくらい遠いんだけど、その家には子どもがいなかった。だから置いてもらえました。
家事は全部やらされたけど、殴らない人がいるんだというのが新鮮だった」
高校にも進学できた。彼女は非常に優秀だったので、大学にも進んだ。大学2年になったとき、遠い親戚の家を出た。