結婚後にトランスジェンダーだと気付いた苦悩。女性から男性へ移行する治療を始めたら義母が
生まれたときに割り当てられた「女性」という性別を、ずっと受け入れられなかった。男性ホルモンを投与するホルモン治療を受けたい――出会って10年以上が経った自分の妻が、そんなことを言いだしたらどう思うだろうか。
私は幼いころから性別に違和を持ちながら、30代後半になってからようやくセクシャルマイノリティ当事者だと気がついた。そんな私のカミングアウトを受け入れる夫を「当事者家族」にすることには抵抗がある。
【前編を読む】⇒「私は自分を男だとしか思えない」結婚後に告白したトランスジェンダー当事者、夫はどう思っている?
そう思いながらも、やっぱりホルモン治療を受けたいと、転職活動をはじめた。しばらくフリーランスの仕事をしていたが、それでは自費診療で高額になる費用をまかなえないからだ。
転職活動を始めた当初は、まだ戸籍名を変更途中だったこともあり、転職エージェントには事情を説明して、通称名を使わせてもらった(注:通常、戸籍名の変更には、変更したい通称名を一定期間使用している実績が必要となる。性同一性障害を理由にした戸籍名の変更であっても、通称名での使用実績が必要になるため、なるべく通称名を使う必要がある)。
4、5社ほどのエージェントと面談し、戸籍上の性別とアイデンティティに違和があるということは伝えたが、対応は各社さまざまだった。みなさん誠実に対応してくれたが、逐一説明しないといけないしんどさはあった。
また、ジェンダーの話をすると、判(はん)を押したように「知り合いにゲイ(レズビアン)がいて」など、知り合い情報を教えてくれる。私に寄り添おうとしてくれる思いには心から感謝している。しかし、私はゲイでもレズビアンでもないし、彼らが抱える悩みを私は実感をもって理解することもできないので、なんだか申し訳なくもあった。
知り合いがいるとアピールをしてくれても、その理解度は実に様々だ。エージェントや企業の人事担当者の理解度に合わせて、使う言葉も変えなくてならない。幸いにも私は記事を書いたり、学会やイベントに出向いて当事者や研究者に取材をしている。相手の理解度に合わせて、性的マイノリティについて丁寧に説明をすることができたと思う。それでも、説明に窮することや、小さな偏見でモヤモヤしてしまうこともあった。
「ご紹介できる求人は限られてしまうかもしれません」と言われては、徒労感に襲われた。隠していれば楽だろうに、とも思ったが、ホルモン治療を始めたいという大きな目的があったし、いま隠せば今後も女性として働くことになると、自分を奮い立たせた。
企業の採用担当の方にお伝えしたいことがある。「うちは(性別のことは)気にしません」に、私は警戒心を抱く。あなたが何者であろうと我々は気にしませんという、受け入れの意味で発してくれているのはわかるのだが、そうは聞こえないのだ。どう聞こえているかというと――「勉強していません」「何があっても知りません」。だって、具体的な想像してないでしょ、と。
お決まりの「ゲイの友人がいる」
採用担当者に知ってほしいこと
