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結婚後にトランスジェンダーだと気付いた苦悩。女性から男性へ移行する治療を始めたら義母が

夢枕に立ったのかは、わからない。でもカミングアウトしないのが、正解だったのかもしれない。伝えたところで、義母に混乱と困惑を与えただけだっただろう。 葬儀が終わっても、私はひとり暮らしの家に帰ることなく、パートナーの家に居着いた。義理の父もいるが少し変わり者で、人にあまり興味がなく無口なタイプだ。本心はわからないが、私が戻ってきても、何も言わないし、何も聞かれない。男性ホルモンを入れてから少しずつ見た目も声も変わっているはずだが、気づいているのかもわからない。

同性婚が認められない国だから

パートナーも、まったく変わらない。最初は気づいていないのかなと思い、「ホルモン打ってるよ」「声が低くなってるよ」と伝えても「もともとオッサンでしたよ?」というだけで特に気にしていない様子だ。老眼でよく見えてないだけか……まぁ、これは冗談だが。 SakuraIori202303_02e私たちにとって、見た目の変化なんて些末(さまつ)な問題なのかもしれない。はじめて出会ってからもう17年目となる。パートナーだってだいぶ髪の毛がなくなっているし、ふたりしてお腹もだいぶ出っぱっている。お互いさまではあるが、いまのまま出会ったころにタイムスリップしたところで、お互い恋愛対象にはならないだろう。 家族関係において、性ホルモンはあってもなくてもたいした問題ではない。問題は家の外に出たときだ。私は男性しか好きになれないし、男性と結婚もしているので、戸籍変更はまったくするつもりはない。戸籍変更には、「手術要件」といわれる子宮や卵巣の摘出のほか、「結婚していない」ことも必要になる。つまり既婚者は、離婚しなくてはならない。

国を捨てたくなる気持ち

性別変更に結婚って関係なくない?と不可解だった。だが、考えてみれば当たり前だ。日本は同性婚を認めていないのだから。 性別を変えるといっても、私と夫は別に変わらない。私の声が低くなって、見た目がおばさんからおじさんになる。そして生殖腺を失うので、性ホルモンの分泌ができない内部障害を抱えるだけだ。それなのに、国は、性別を変えると、私たちの関係を一切認めなくなる。 性的マイノリティや同性婚に関連して差別的な発言をして2月更迭された荒井勝喜首相秘書官(当時)は「人権や価値観は尊重するが、認めたら国を捨てる人が出てくる」と言った。むしろ私は、現状のほうが国を捨てざる得ないと感じてしまう。 【佐倉イオリ】1983年生まれ。幼稚園の頃には「女じゃない」という自覚がありがならも男性が恋愛対象だったことや「他の女の人も皆我慢しているのだろう」と考えたため、女性らしくなろうと試行錯誤。「女性らしくなりたい」「男性に見られたい」と揺らぎながら30歳で男性と結婚。30歳を過ぎてその葛藤が「普遍的な女性の悩み」ではないと気づき始めた。宣伝会議の「編集・ライター養成講座」41期生として執筆した卒業制作で、最優秀賞を獲得 twitter:@sakura_iori3 <文/佐倉イオリ>
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