親の老後の話をすると、なぜか家族全員が無言になった
「夫の父親のこともあり、『介護は突然やってくる。徐々にじゃないんだ』ということはわかっていたので、うちの親の老後についてなるべく早く家族で話し合おうと思っていました。だからつい先日、やっとみんなで実家に集まれるようになったタイミングで、妹と弟、そして両親に話してみたんです。でも、家族の反応は私の予想外でした」
急に言葉を詰まらせる片倉さん。一体何があったのでしょうか。
「みんなが集まっているときに、『お母さんとお父さんの老後の話がしたい』『
体も弱ってきていて、そろそろ介護を本格的に考えた方がいいんじゃない?』と切り出してみたんです。すると一瞬で空気が凍るというか、みんな無言になってしまって……」
むしろ、「確かに、そろそろ現実的に考えないとね!」と兄妹からも後押しされると思っていたそう。しかし、
全員うつむいて、口数も減ってしまったとか。
「介護を考える上で、両親たちが考えている老後のプランを共有することも大事じゃないですか。だから、『お父さんたちはどう過ごしたい?』『施設に入るのもあり? それとも在宅にこだわりたい?』っていろいろ聞いてみたんです。できるだけ希望に寄り添ってあげたいですからね」
「俺たちを年寄り扱いするな!」部屋に響く、父の怒号
現実的な話を進めますが、なぜか誰もついてきません。
「続けて『両親が、自分たちの介護に充てようと考えているお金はどれくらいあるのか』も、聞いてみたんです。貯金はいくらくらいあるのか、どこの口座にどれくらい入っているのか、電気代やガス代とか、どんな支出がどこの口座から出ているのかとかも。
そしてなにより、『それぞれの口座の暗証番号を教えといてほしい』というお願いもしました。認知症になったり、物忘れが悪化してから、『介護のためのお金をおろしたくても、親が暗証番号を思い出せなくて、控えもなく、一切おろせない』という介護の失敗談も聞いていたので」
しかし、お父さんから出た言葉は……
「父の第一声は、
『俺たちを年寄り扱いするな!』という怒りの言葉でした。
お金のことも、『金、金、金って不愉快だ』とも。その時の私は家族のために率先して動いているつもりだったので、ショックでした。
でも今思うと、私ひとりで焦り過ぎていたのかも……」
コロナ禍で会えない期間を耐えて、やっと会えた両親がひとまわり以上小さくなって“老い”をつきつけられて。親の介護を考えなきゃ! と慌てていた片倉さん。ですが、改めて自分自身の言動を振り返ります。
「おそらくですが、両親も自分の老いにまだ向き合えていないのかもしれません。体は弱くなったり支障も出はじめているけど、『自分たちはいつまでも元気なはず』だと思いたいというか。きっと、子どもが親の老化を受け入れられないように、親もすんなりとは受け入れられないんじゃないかな。考えなきゃいけない問題ですが、私の言動は一気に現実を突きつけてしまったのかもしれません」