
9話より
まるで純愛のような不倫を描くこと。そして濡れ場を濡れ場でなくすること。本作の岩田にかせられた使命は、見事に達成されている。
岩田からしたら、単なるサービスシーンではないぞ、自分は今、新名誠としてここに存在しているんだという俳優としての毅然とした表明にもなっているように思う。
第9話では、細部に伏線を張るかのごとく、慎ましくも凛々しい表情の数々をさりげなくしのばせる。例えば帰宅の道中、かつてみちが唐突にレスの告白をした(第1話)川辺のベンチでの場面。
ビールを買ってきた新名が、嬉しそうにコンビニ袋を掲げる瞬間の柔らかな笑顔。結局ビールを持ち帰ることになり、マンションのベランダでひとり、ビールをちびちび飲む切ない表情。
飲み込み、うつむいた瞬間に、唇をぱくっとふるわせる。ほんのわずかな微動のすべてが、岩田にしか出せない味わい深さではないか。
複雑に絡み合う新名の心情が、手に取るように伝わってくる。楓との肉体の関係は破綻しているが、精神的な結びつきが完全に断たれたわけでもない。彼女を傷つけたくはない。新名は、まだ妻への情を感じている。
楓がホテルに泊まり、帰らない晩は、ひとり、キッチンでカップラーメンをすする。そう、新名はひとりだと料理をしない。新名の心のひだを解くように、畳み掛けるように演じ込まれる。
岩田剛典モードのスイッチが入り、怒涛の演技が積み上げられる。すでに演技の沸点は超えている。新名の心に触れ、その複雑さを表現する岩田の役作りの丹念さ、その丁寧な仕事ぶりを感じる。