
第11話より
それは第10話での新名の「はい」の謎だ。昇進試験に不合格だった吉野みち(奈緒)と新名が居酒屋で食事をする。みちが陽一との離婚を報告したときだった。
相手を見つめる視線を一度下に滑らせた新名が、目を軽くしばしば。二間くらい置いて視線をあげる。そして「はい」ともらすように言う。タメ方がものすごい。それを受けたみちは、やや困惑ぎみに「はい」と同じように返す。この場面での新名の気持ちは正直、よくわからない。
あまりの嬉しさに頭がおかしくなったのか、単純に気持ちを抑えているだけなのか。最終話でみちと新名楓(田中みな実・この時点で離婚しているので姓は変わっているだろう)が立ち飲み屋でサシ飲みをするときには、楓が「誠はむっつりなの」と言っていたっけ。
むっつりの人が喜ぶとああいうテンションになるのか。とはいえ、筆者は、岩田の演技の異常なタメ方も含め、そもそも摩訶不思議な存在である新名誠最大の謎だと思っている。

第11話より
この「はい」だけでなく、結構新名は謎な反応と行動を繰り返す人なのだが、最終話でふたたびこの二文字を発している。陽一のカフェで、新名、吉野両夫婦(正確には元夫婦)が勢揃いし、決着をつけようとする本作のクライマックス。
店を出た新名とみちと楓の3人が雨の中、傘を差して短い会話を交わす。ひとり足取りがとまるみちは「忘れもの」と言う。それに対して新名は口角をあげたとびきりの微笑みを浮かべ、「はい」とだけ優しげに発する。
この「はい」ならまだどんな気持ちかわかる気はする。でもよーく見ると、まるでモナリザのような神秘さをたたえているようで、表情の意味が読みにくい。
第10話の「はい」と最終話でのそれには数ヶ月間の隔たりがある。その間、新名はどんな魔法にかかってこんな神秘的な微笑みをするようになったのか。謎は深まる。