
この公表を重く受け止め、むしろ当人以外の人々が深く考えていかなければならないのは、「幸せに自分らしく生きる権利」が明々と語られているからだ。誰しも自由に生きる権利がある。当たり前のことではないか。
日本国民として税金を収めるだとか国民年金を毎月払うとか以前の話。それは人命の根源に関わる。こんな当たり前のことがこの21世紀、しかも先進国なのに、長年、曖昧にされ続け、不完全な状態であることがおかしい。
ゲイとして生まれたら普通ではないのか。そもそも普通とは何なのか。それぞれが個々に思い、感じるもの、それらすべてが普通なのである。社会が規範(ルール)として決めるものではない。
これまでのルールが、今も権利を不当に踏みにじっているのなら、それを変えるまでのこと。

社会的、政治的な意味で具体的な方策は進められるべきだが、エンタメ世界での扱われ方、描かれ方にもしっかり目を向ける必要がある。ラブストーリーを例に考えてみよう。映画でも音楽でも、古今東西問わず、恋愛がテーマになることはあまりにも多い。
だが作品内の恋愛関係は大抵の場合、男女間であることが最初から想定されていないだろうか。ヒーローはヒロインに出会い、お互いに恋をする。当たり前に思えるキャラクター関係にも実はジェンダーバイアス(男女の役割に対する固定的な観念や、それに基づく差別、偏見)が働いているのだ。
私はあなたを愛している。ある歌詞の中で主体となる私が男性であるのか、女性であるのかは関係ない。あなたも然り。ヒーローやヒロインが必ず異性を愛する必要はどこにもない。
そして同性間の愛を描くと葛藤の物語になりがちなこともナンセンスではないか。さらに言えば、他者に性的魅力を感じないアセクシャルの人からすると、作品内の主人公たちが恋愛することが前提になっていることも億劫ではないか。