経歴だけでなく音楽もユニークなリナの表現性を考えるなら、この一曲が最適だろう。リナが2020年にリリースした「Chosen Family」。「Chosen Family」とは、血縁や人種にとらわれない家族のような共同体を意味する。
LGBTQコミュニティで育まれてきた言葉だ。トラックタイトル自体に直接的な意味を持たせながら、リナの歌声がこれまで居場所がなかった相手を優しく包み込むように囁いてくる。力強く鼓舞してもくれる。人類全体がひとつの母胎の中で揺り動く様には聴こえないだろうか。
全(パン)世界を包み込み、愛の眼差しを向けるリナらしい温かみを感じる。この曲を高く評価したのが、LGBTQカルチャーの生き証人エルトン・ジョンだったことも象徴的で、2021年にエルトンとリナはこの曲を再レコーディングしている。改めてその意味を世界に問うたのだ。
「Chosen Family」でリナが問うメッセージは、あまりにも真摯で力強い。
2020年リリースの「STFU!」のミュージックビデオでは、アジア人への偏見や女性を軽んじる男性をうちのめす。女性をエンパワーするストレートな表現が刺さる。
ぼけぼけなんてしてられない。世界には理不尽な差別や偏見がまだまだたくさんある。それを他人事のように感じ、無関心でいていいはずがない。
目を覚まさなくては。リナの音楽はリスナーを覚醒させる。リナが訴えるメッセージをいかにキャッチし、自分事として捉えられるのか。それはリスナー次第ではあるが、伝えようとしていることは至極真っ当。当たり前のことなのだ。
リナは、アジア人差別をほのめかした元レーベルメイトを名指しで批判することもじさない。そうした勇気ある行動力に触発されるアーティストは多い。
例えばリナのルーツであるアジア圏はどうだろう。日本では新鋭ながらYamato Watanabeが、「NEZO」や「F.D.O.」などのリリース曲で社会への問題提起に取り組み、サウンド面、精神面の両面でリナの影響下にあることが明らかだ。
韓国でも、LE SSERAFIMやTWICEなど、K-POPグループのパワフルなコンセプトに類似性が認められる。
リナの活動拠点イギリスでもデュア・リパのようなスターが肩を並べながら、リナサワヤマ・フォロワーアーティストたちが世界規模で多発的にメッセージを発信しているのだ。リナを中心にこういう輪が広がれば、世界はもうすこしいい方向へ変わると筆者は思うのだが。