宇垣美里も刺さった!女性口コミで異例の大ヒット『鬼太郎』は救いなき“愛の話”
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:誰もが知るアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」、その主人公・鬼太郎の誕生へと続くエピソードゼロに当たる物語が、父親・目玉おやじの過去として明かされます。
本作は11月17日の公開後、女性を中心に口コミで人気が広がり、週末の観客動員数が連続で前週を上回り、観客動員数は114万人を超え興行収入が16億円を突破。応援上映が全国各地の劇場で予定される異例のヒット作となりました。原作者・水木しげる生誕100周年記念として作られ、観客に熱く受け止められた作品を宇垣さんはどう見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
なんで受け入れてもくれない人間なんかのことを、ずっと助けてくれるんだろう。アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』を観る度に不思議だった。
でも、アニメ版第6期のエピソードゼロたる『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観た今なら、その理由がわかる気がする。あの妖怪アニメがこんなにも、愛に溢(あふ)れた物語だったなんて。
廃村で鬼太郎に父である目玉おやじが語るのは、ある男との出会いについて。昭和31年、会社員の“水木”は、日本の政財界を裏で牛耳(ぎゅうじ)る龍賀一族当主の急逝を聞きつけ、出世のため、その葬式に出席すべく人里離れた哭倉村を訪れた。
しかし、次の当主争いの最中に村で殺人事件が起きてしまう。そんな中、妻を探すため同じく村に足を踏み入れた鬼太郎の父だったが、風貌の怪しさから村人たちに容疑者扱いを受けてしまう。
思わず彼を助けた水木は鬼太郎の父を“ゲゲ郎”と呼び、ある密命と野心のため彼と手を組むことに。ふたりはそれぞれの思惑を胸に、村の秘密に迫っていく。
横溝正史(よこみぞせいし 代表作『八つ墓村』『犬神家の一族』など)的世界観の因習めいた村を舞台に描かれるのは、おぞましいまでの家父長制で文字通り民の生き血をすするようにして繁栄してきた一族の罪と罰。
喫煙シーンなどに見られるリアルな昭和描写や、閉鎖的な村のじっとりとしたおどろおどろしさ、血迸(ほとばし)るゴア描写は迫力満点であっという間に引き込まれる。
また、復員兵である水木の過去は『総員玉砕せよ!』などにも描かれた水木しげるが実際に体験した不条理な戦場の風景そのもの。
村にも戦場にも共通する、大義の名の元に人を人として扱わない搾取(さくしゅ)の構造はあまりにむごく、物語の端々に、戦前から現代まで続く日本の姿勢への痛烈な批判と反戦のメッセージを感じ、胸に刺さった。
特筆すべきは水木たちふたりのバディ感。辛い経験から二度と搾取されてなるものかと権力や金を得ることに固執してきた水木は、“ゲゲ郎”との出会いによって凶悪な権力に立ち向かう勇気を得る。
一方の“ゲゲ郎”もまた、水木との出会いによって懐疑的であった人間への愛を知る。たった数日の出来事ながら互いの人生を変えるほどの邂逅(かいこう)は濃厚で、正反対ながら根本の似た凸凹バディのやり取りをずうっと見ていたくなった。
またアクションシーンも気合の入った作画で、“ゲゲ郎”の人外らしいダイナミックな戦闘スタイルは普段の飄々(ひょうひょう)とした様子とのギャップも相まって強い印象を残す。
弱者を踏みつけにしてきた龍賀一族のひとりひとりにも、尊厳を奪われ続けてきたであろう過去が垣間(かいま)見え、嫌いになりきれない。あったであろう日々やありえたはずの未来を描いたファンアートがSNS上に多数投稿されているのも納得だ。

撮影/中村和孝
あの妖怪アニメがこんなにも愛に溢れた物語だったなんて
互いの人生を変えるほど濃厚な凸凹バディ関係
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