いったんは納得し、さらに夫婦の間に新鮮さも戻ったかのように感じられた。
「日常生活はけっこう忙しいじゃないですか。私も自宅で少し仕事をしていたし、娘の習いごとの送迎などもあって、夫への信頼感を取り戻したと思い込んでいた。今、ふりかえると、家庭を円満に調えなければいけないと自分を抑制していたんでしょうね」

やり直そうと決めてからは、娘が習いごとでいない週末の昼間、ふたりでデートすることもあった。夏と冬の家族旅行も少し長めにとった。
「夫婦だから夜の営みもしましたよ。最初はイヤだったけど、応じないとまた浮気されるかもしれないという恐怖感もあって。私自身は
感じなかったけど、精一杯、感じたフリはしていました」
夫も自分に気を遣ってくれているのがわかるから、ヒロコさんもがんばった。笑顔を向けているうちに、その笑顔が本物なのだと自分で思えるようになっていった。
ところが2年ほどたったころ、彼女は突然、体調を崩した。
「まず、帯状疱疹になったんです。我慢したために病院に行ったときには悪化していて即入院。それがようやくよくなったら急性胃腸炎、その後は卵巣嚢腫の悪化、さらに突然の失声症と
数々の病気に襲われました。最終的には主治医が『全部、ストレスがらみですねえ』って。
そう言われて初めて、ぶわっと涙が出てきました。私、夫の浮気がわかったときも涙ひとつ流さなかったんです。ああ、私はあのときものすごくショックを受けていて、それをきちんと受け止めないままに
理解したふりをして“いい妻”を演じていたんだとよくわかった。だから夫に、『がんばったけど、やっぱり無理だわ』と」