――逆に「芸人って難しい」と感じることはありますか?
「正直に言えば、今のところ全部が難しい。まだ、できることの方が少ないです」
――きりさんは2024年デビューで、まだ2年目なんですよね。
「はい。賞レースにも挑戦はしていますが、今はまだ結果を出せていないです。周りの芸人さん、みんなが面白く感じてしまいます」
――お笑いにおいて、ロシアと日本でのカルチャーショックのようなものはありますか?
「最初の頃は“あるあるネタ”が全くわからなかったんですよね。今はわかることも増えてはいますが、根本的に理解ができない“あるあるネタ”もたくさんあります。特に学校あるあるなんて、私には一生わかりませんし」
――ロシアというだけでなく、音楽学校という環境も相まって。
「でも、これはしょうがないと割り切るしかないですね。それに、ロシア的なユーモア感覚からのギャップも感じています。ロシアの笑いって日本人には刺激が強すぎると思いますよ」
――ロシアのお笑い……。どういったものなのですか?
「主流はスタンダップコメディです。男女差別、障がい差別みたいなネタもかなり多いですが、誰も傷つくことはない。そこはロシアには“差別する”という風潮が社会にもともとないのだろうと、プラスに捉えています」
――それは確かに、今の日本では難しそうな笑いです。
「養成所時代はよく『男なんて~』みたいなネタをして注意をされていました。ロシアでは普通でも、日本ではその言葉に傷つく人がいるって意識しておかないと、ポロっと出ちゃいそうなんですよね。同期の芸人には、『もし私がそういう発言をしたら指摘してね』って伝えています」
――ピアノを辞めた後、お笑い芸人を目指したのはなぜですか?
「10歳くらいからずっとお笑いは好きだったんです。特に好きだったのは、キングオブコメディさん。ただ、当時は自分がやりたいという感覚ではありませんでした。
芸人を志したきっかけは、インパルスの板倉さんのピンネタです。板倉さんのネタ、面白すぎて衝撃でした。自分にしかできないものを、作り続ける人。私もこういう大人になりたいと思ったんです」
――しかし所属事務所は、板倉さんのいる吉本興業ではなく人力舎を選んでいますね。
「子どもの頃から憧れだった、キングオブコメディさんがいた事務所というのが大きかったですね。同時に、他の事務所では自分の経歴を使ってなにかやりなさいと言われそうだと思ったんですよ。人力舎だと別にピアノのネタをやらなくても怒られなさそうというか(笑)」
――良い意味でのゆるさが魅力だった、と(笑)。
「実際、人力舎で良かったです。他の事務所だと過去の経歴を生かして番組に出たり、さらに伸ばしてもらえたりしたかもしれない。でも、私はピアノに未練はまったくないし、辞めたからにはそれなりの覚悟を持つべきだという考え方なんです。芸人として表舞台にはどんどん出ていきたいですが、元・ピアニストとしてとなると、それはどうかなと思っています」
<文・取材/もちづき千代子>
もちづき千代子
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:
@kyan__tama