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NHK朝ドラ『あんぱん』36歳俳優の“まさかの高祖父”に驚きの声。類似点を探してみると

代表作『武蔵野』が演技を形容

NHK『あんぱん』©︎NHK 文庫本で7ページ程度の「たき火」冒頭の一文から引用する。「枯草白き砂山の崕(がけ)に腰かけ、足なげいだして、伊豆連山の彼方に沈む夕日の薄き光を見送りつ」。  小説の舞台は海辺。さらに「吹く潮風に騒ぐ」とあるように小説世界と波風感じる次郎役が単純に通じる。でも役柄だけではない。引用した冒頭一文「足なげいだして」と「夕日の薄き光」は、中島歩の演技自体を形容するにはぴったりではないかと思う。 『あんぱん』でも他の出演作(たとえば濱口竜介監督作『偶然と想像』(2021年))でも中島は、低い声でぼそぼぞ、でも台詞の一言一言を丁寧に配置する。  とても悠然としていてもったりした固有の余白が美しい演技。独歩が書いた、足を外へ投げ出すゆったりした感じと薄い夕日の光の雰囲気をまさに感じる。中島の演技も独歩文学もともに滋味深い空気感と世界観を提示するテンポが似ている気がする。

注目すべき木漏れ日の背中

NHK『あんぱん』©︎NHK 第37回で描かれるお見合い場面を見てみる。のぶと次郎は座敷席で向き合って座る。お互いに相手を眼差す。カメラは次郎の背後に置かれ、画面手前下手で見切れるかという次郎の背中、奥に次郎を見つめるのぶが写る。  注目すべきはこの次郎の背中である。窓外から差し込む木漏れ日がちらちら背中に写っている。しかも木々が風になびく。だから木漏れ日が背中上をちらちら動くのだが、中島歩は正面が写らずともこうやって背面だけでも表現を生んでしまえる(もちろんこれは演出上計算された照明によるもの)。  そのあと、のぶと次郎は外の庭で会話する。室内から室外に移動しても依然として中島は木漏れ日を受ける。もしこの木漏れ日が上述した『武蔵野』のような「夕日」だったらさらにどれほど文学的だったかと想像を膨らませてくれるのも中島歩という俳優の魅力だと思う。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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