洗練されたあいまいな空気感が北村の表情全体を漂い、基本的に何ともいえない表情が持続する。上述した場面ではカメラが捉える北村のアップ自体を持続させるかのように、座っていた嵩が立ち上がるアクションきっかけでカットが切り替わる。そうしてカメラが下から上へ動きを追う(撮影用語ではティルトアップ)。
カットが替わりティルトアップしながら北村のアップが写る。台詞を発する前にちょっと身体をのけぞらせる何ともいえない動きがいい。北村匠海とは、何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る達人だと思う。
そのアップの画面もまたローアングルだったように、北村を捉えるアングルがピタリときまるとさらに達人度が極まるように感じる。逆にいえば、何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る北村が達人になるためには、ローアングルが絶対条件ということ。

第15週第71回冒頭場面では、嵩が高知新報の入社試験を受ける様子が描かれる。がちがちに緊張しておどおどしてばかりいる嵩は面接で空回りする。面接後、のぶと露店で会話する美しい場面があるのだが、ここでもやはりローアングルが印象的である。
嵩はアメリカの漫画雑誌に圧倒された悔しい気持ちをのぶに話す。そして「世界一面白いものを作りたい」と少し恥ずかしそうに夢を語る瞬間、カメラは北村のアップをローアングルから写す。夕景の情感もあいまって、相変わらず何ともいえない表情を作る北村の演技がここぞとばかりに輝く。
結果的に嵩はのぶのアシストによって入社する。第75回、取材で上京した編集部一同がおでん屋台で食事する場面がある。大根だけしか食べないのぶに対して感謝の気持ちを伝えようと東京にきた嵩が「そっか」とさまざまな感情を込めて控えめながら、エモーショナルに発する。
で、この場面はローアングルではない。なのにこんなシンプルなワードである「そっか」を世界一繊細で美しい響きのようにふるわせる。北村匠海という俳優は特定のアングルにかかわらず、どんなアングル、どんなポジションでも達人は達人なんだなと思う。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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