朝ドラ『あんぱん』27歳俳優=達人だと確信した“絶妙な表情”「セリフを発する前に…」
何ともいえない表情と何ともいえない動作を作る達人
世界一美しい「そっか」
第15週第71回冒頭場面では、嵩が高知新報の入社試験を受ける様子が描かれる。がちがちに緊張しておどおどしてばかりいる嵩は面接で空回りする。面接後、のぶと露店で会話する美しい場面があるのだが、ここでもやはりローアングルが印象的である。
嵩はアメリカの漫画雑誌に圧倒された悔しい気持ちをのぶに話す。そして「世界一面白いものを作りたい」と少し恥ずかしそうに夢を語る瞬間、カメラは北村のアップをローアングルから写す。夕景の情感もあいまって、相変わらず何ともいえない表情を作る北村の演技がここぞとばかりに輝く。
結果的に嵩はのぶのアシストによって入社する。第75回、取材で上京した編集部一同がおでん屋台で食事する場面がある。大根だけしか食べないのぶに対して感謝の気持ちを伝えようと東京にきた嵩が「そっか」とさまざまな感情を込めて控えめながら、エモーショナルに発する。
で、この場面はローアングルではない。なのにこんなシンプルなワードである「そっか」を世界一繊細で美しい響きのようにふるわせる。北村匠海という俳優は特定のアングルにかかわらず、どんなアングル、どんなポジションでも達人は達人なんだなと思う。
<文/加賀谷健> 1
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