そのレイニのアップ後、野音ステージ上に登場したTENBLANKを見つめる客席が写る。つまりバックステージにいた有栖川が動かす視線は、TENBLANKが演奏を始めようとする屋外のステージの方へ向けられていた。
ドラマ上は単に場面と場面を繋ぐ演技の細部に過ぎない。でも室内から室外へ単純に視線を動かしただけで、物語を大きく動かす媒介者のような役割をレイニがさりげない演技力で担っている。
赤楚衛二主演ドラマ『相続探偵』(日本テレビ系、2025年)の主題歌を担当することで今年メジャーデビューしたばかり。その上、俳優仕事は、『今日からヒットマン』(テレビ朝日系、2023年)や『相棒』season23(テレビ朝日系、2024年)など、数えるほどだというのに。どうしてこんな細やかな演技をやってのけられるのか?
木村拓哉が織田信長を演じた映画『レジェンド&バタフライ』(2023年)では、冒頭場面からレイニが囃し立ての一人としてそれなりに存在感を主張していた。
相葉雅紀主演ドラマ『今日からヒットマン』第3話同様に、ゲスト出演した『相棒』season23第8話でも初登場場面からクールだけれどどこか柔らかな雰囲気を漂わせた。
いずれの作品もレイニが音楽界をフィールドとするアーティストという情報がなければ、単に新人俳優がでてきたんだなくらいにしか思わない。
それがドラマ主題歌で今年メジャーデビューするや、徳永英明の次男であり、どうやらレイニという名前が、徳永が1986年にリリースしたデビューシングル「Rainy Blue」に由来するらしいというパーソナルな情報がどんどん解禁される。
その上で『グラスハート』はアーティスト役を演じることで、アーティスト活動とうまく両立しながら、俳優活動の名刺がわりになる試金石のような作品だ。
第1話ではライブ場面で6カット、楽屋廊下場面で1カットのみの登場だったが、第2話冒頭ですぐ印象的な視線移動によってレイニの細やかな演技力がどどんと打ち出された。
アーティスト活動もめざましい菅田将暉との共演もまたレイニの俳優活動のさらなる助走となるだろう。
<文/加賀谷健>