織田裕二は80年代にデビュー、90年代は『東京ラブストーリー』のカンチ、97~2012年までは『踊る大捜査線』の青島として絶大な人気を誇った大スターであった。
筆者は彼のスター性を間近で感じたことがあった。忘れもしない、2010年に織田裕二を取材したときだ。
取材のあと、編集やカメラマンと握手をしてくれた。そういうことはまああることだが、取材部屋を出かけた織田が踵を返して戻って来たのだ。なにごと? と思ったら、カメラマンアシスタントにも手を差し伸べた。「だって、(握手)してほしいって顔しているから」
そう言うと白い歯を見せてニカッと笑った。
カメラマンアシスタントは心底うれしそうだった。こんな言動が似合う人はなかなかいない。なんて爽やかな、こういう人をスターというのだろうと思ったのだ(このエピソードは拙著『挑戦者たちトップアクターズルポルタージュ』「織田裕二 熱情」として収録している)。
カンチのステンカラーコートも、青島のモッズコートもハミルトンの時計も多くの視聴者が真似した。ドラマの登場人物が身につけているものが流行ったのは、木村拓哉と織田裕二の2トップだろう。
視聴者が取り入れやすいということはつまり、親近感のある役をやってきた。カンチは一般的なサラリーマンで、青島は叩き上げの刑事。それが10年代に入ると、織田裕二の演じる役が変わっていった。
『外交官 黒田康作』(11年)、『IQ246~華麗なる事件簿~』(16年)、『SUITS/スーツ』(18年)と役柄がスケールアップしていくにつれ、視聴者の求めるものと乖離しはじめたような印象があった。年齢もキャリアも重ね、当人の大物感も増した。肉体的にもどんどん貫禄がついて、その身体から、「世界陸上」でおなじみのとめどないエネルギーがますます溢れだしてくる。
その超越感が外交官や天才名探偵やエリート弁護士などにハマる。ハマり過ぎるからこそ、視聴者の手の届かないところに行ってしまったと感じさせたのかもしれない。衣装も小物ももう真似できないし。