『コントが始まる』(21年、日本テレビ系)で演じたマクベス(makubesu)という名前のコントグループのメンバー高岩春斗はニュートラルな人物だった。
そういえば、『コントが始まる』第1話で彼らのコントを見に来た有村架純演じるヒロインが「もし私が見に来ていることを知ったらいったいどんな顔をするだろうか」と、今回のタイトルみたいなセリフを言っていた。まさか『もしがく』がそこから来ていたらどうしよう。まあどうもしないが。
有村のセリフは岡村靖幸の「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」(90年)が元ネタだと思う。

「もしがく」第1話の場面写真 (C)フジテレビ
三谷幸喜の場合は、アメリカ映画『ペーパー・ムーン』(1973年)の主題歌「It’s Only A Paper Moon」ではないだろうか。村上春樹が『1Q84』(1984つながり!)の冒頭で歌詞を引用している。
<ここは見世物の世界 何から何までつくりもの
でも私を信じてくれたなら すべてが本物になる
It’s a Barnum and Bailey world,
Just as phony as it can be,
But it wouldn’t be make-believe
If you believed in me.>
もし私を信じてくれたらならつくりものは本物になる。物語を作る人の共通の気持ちなんじゃないかと思う。
ちなみに『1Q84』のBOOK1第24章は「ここではない世界であることの意味はどこにあるのだろう」だ。キリがない。
話を戻して、菅田将暉である。三谷幸喜は『鎌倉殿の13人』で義経を演じた菅田将暉を意識しているようだ。
<(前略)「鎌倉殿の13人」(NHK大河ドラマ/2022年)の印象が強くて。あのときの源義経(菅田の役名)を観たときに「この人には今後こんな役をやってほしい」という思いがすごく膨らんだんですよね。菅田さんは「ただのいい人」「憎まれ役」など一色で語られる役ではなくて、もっといろいろな面を持った複雑な役ができる人だなと思ったんです。「そういう役を書かせてほしい」「演じてほしい」という思いで今回の役が出来上がりました。>(
「モデルプレス」9月28日より引用)
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で菅田が演じた源義経は、戦の天才で、思い立ったら即行動に移す人物。「引き絞られた矢が放たれたかのようじゃ」とも例えられ、芋が箸でとりにくかったらぶっ刺したり、うさぎをとりあって相手を騙して矢を放ったり、壇ノ浦の戦いでは敵の漕ぎ手を射殺せと禁じ手を命じたり容赦ない。「私は戦場でしか役に立たぬ」と肩を落とすシーンもあったが、基本、大きな目をひんむいてわめいていた。
大河ドラマの菅田将暉は天才ゆえ手のつけられない激しい人物を連続で演じている。三谷作ではないが『おんな城主 直虎』(17年)で初めて大河に出たときはやんちゃで手のつけられない井伊直政役を演じていた(いつか大河ドラマ『井伊直政』をやってほしい)。
同じ年に公開された映画『帝一の國』も生徒会長になるため野心を燃やす男の激しいキャラが人気を博した。ドラマ『民王』(15年 テレビ朝日系)からの流れで、血管が切れそうなほど顔に力を入れて喉が潰れそうなほど大きな声を出す、そんなキャラを一時期菅田は連続で演じていた。

「もしがく」第1話の場面写真 (C)フジテレビ
真面目に物事を考え過ぎて、頭に血が上って、歩留まり考えずに大声を出してしまう。そんな感じの人物を演じたときの迫力は右に出る者はいない。