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「夫を嫌いじゃないけど離婚する」に共感する? 仲間由紀恵が夫を責める“ぼやき芸”が突きつけるもの|ドラマ『ちいかみ』

さりげなく夫婦別姓問題にも触れている

 『小さい頃は、神様がいて』では例えば、かつてあんの体調が悪かったときにバニラアイスを頼んだらチョコアイスを買ってきたことをねちねち責める。たわいないことに複利がついて20年後には何倍にも膨れ上がる。これが投資だったらうれしいが人間のネガティブな感情だからたまったものではない。  たぶん結婚したら「小倉あん」というあんこの種類のような名前になってしまったことも不満のひとつだろう。育児によってキャリアが中断されるしんどさのみならず、さりげなく夫婦別姓問題にもドラマは触れている。
『小さい頃は、神様がいて』より©フジテレビ

『小さい頃は、神様がいて』より©フジテレビ

 いまでこそワンオペ育児問題や結婚して苗字が変わる不便さなどが世の中に広く発信されるようになったが、かつてはここまで結婚した女性の不満は可視化されなかった。そのため、夫が定年したとき、いきなり離婚を突きつけるということをやってのける猛者たちもいたようだ。1ミリも離婚の意思を見せず従順にふるまい続け、ここぞというところでちゃぶ台を返す。なかなか根が深い。  我慢に我慢を重ねて花粉症のように発症させる人は、結婚関係に限ったことではなく、時々いる。筆者の個人的な経験を言うと、若き頃、締め切りをしょっちゅう破っていたら、あるとき、原稿を提出した時点で連載はこの回で終わりですと言われたことがある。それまで黙って受け取ってくれていた心の裏側を思うと震えた。  以来締め切りを守るようになったのでその編集者には感謝しているが、だからこそ定年で離婚を切り出された夫の話を目にするたび、筆者の胸は疼く。どちらかといえば渉寄りの筆者だが、もしも仲間由紀恵に引導を渡されたら仕方ない気がしてしまうのだ。
『小さい頃は、神様がいて』より©フジテレビ

1階に住むシニア夫婦を阿川佐和子と草刈正雄が演じる。『小さい頃は、神様がいて』より©フジテレビ

『トリック』でも発揮された“ぼやき芸”

 仲間のぼやき芸は『トリック』シリーズの主人公・山田奈緒子が有名だ。貧乏でいじましいキャラ設定で、相棒の上田(阿部寛)をいつもやりこめようとしていた。乱暴な口調やいじましさやちょっとした毒も仲間がやると不思議と応援できた。  だが、『小さい頃は、神様がいて』のあんは、北村有起哉の憎めない演技力もあって、彼女が完全なる正義ではない様相も呈している。あまりに北村演じる渉の言動が決定的でなく、それなりに家族は彼のおかげで支えられてきたように見えてしまうからだ。  あんは渉が嫌いじゃないし、性行為にいたってはあんから誘ったことも多かったというくらいと聞くと(第2回)、なんなんだ?という気もしないではない(仲間さんの口からそんな肉食系なセリフが出るなんて!)。
『小さい頃は、神様がいて』より©フジテレビ

「たそがれステイツ」の面々に語りかける順。『小さい頃は、神様がいて』より©フジテレビ

 そして、第5話で、あの日、娘が二十歳になったら離婚すると騒いだとき、息子・順(小瀧望)が3歳という幼いながらちゃんと聞いていたことに気づいてしまう。息子が「天使」と思われるほど気の回るいい子だったのは、父母にとことん気遣っていたからだった。つまり、息子もあんと同じく、黙って相手の言うことを聞いていたことになる。とすれば、いつかあんのように爆発してしまう危険性も孕(はら)んでいそうでこわい。
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この家庭は崩壊してしまうのか?
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