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「来てくれないと死ぬ」深夜のSOSも…… 大人になった“元・児童養護施設の子どもたち”を支える現場のリアル

次第に気づいていった“支援しない勇気”の大切さ

髙橋亜美さん こちらが熱意を注いでも、相手には意図した通りに想いが伝わらず、より向き合おうとすれば自分が削られていく――。高橋さんは気付かぬうちに悪循環に陥っていたと振り返る。 「悪循環に陥ると、次第に『相談者に対して強く出ないといけない』と思うようになり、今度は相談者を支配する構図になってしまう。私自身、本心では想っていないのに、相談者に対してひどいことを言って口論したりと、お互いを傷つけあってしまう失敗も多々ありました。 過去の教訓を踏まえると、お互いが健康的で対等な関係でいるためには、先ほど話したような“手放す”関係が塩梅が良いのだと感じています。福祉業界や支援事業ではあるあるですが、『支援しない勇気』と言いますか、ある程度支援される側に委ねるスタンスも重要なんだなと」  かつては当事者からのSOSに逐一応じていた高橋さんだが、いまは非番の日に「死にたい」という連絡が来たら、「生きててほしいけど仕方ない、天国で見守っていてください。バイバイまたね!」と伝えることもあるそうだ(※もちろん自傷希求を促す意図はなく、緊急時は適切な機関へ接続するという前提のもとで)。  すると意外にも、相談者が無茶な要求をしてくる機会は減っていった。 「本来、友人や恋人であれば、別れ際に『次はいつ会う?』と約束するのが普通ではないでしょうか。だから私も、相談者が『もう死ぬ!』と発してきたら、『私はまた会いたいけど、次はいつ会えるの?』って話してます。そしたら向こうも『何日後かな』と冷静に考えてくれる。それってとても自然なことではないでしょうか」

“手放す”の2つの意味

 高橋さんが話した“手放す”という言葉には、二重の意味があると気付かされる。  1つは「相談者を依存させない」という意味合い、もう1つは「支援者側がケアすることに依存しない」という意味だ。それはある意味で、支援者と相談者は合わせ鏡のような関係であり、それゆえ適切な線引きが求められると痛感する。  高橋さんは相談所を立ち上げて15年目に突入するなか、2025年8月には新拠点「ながれる」を開設。現在はスタッフ7人で、年間200人近い当事者を受け入れ続けている。  障壁を抱えた当事者の支援に終わりはないが、それでも高橋さんは「ようやくいま少しずつ、何か新しい関わり方が生まれている境地かな」と話す。それは支援の限界を受け入れた先ににじむ、確かな一言のように思えた。 <取材・文/佐藤隼秀>
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