藤原丈一郎が体現するポジティブなキャラクターの魅力
――season2になっても辰之助と里夏は付き合っているのか不確かなところもあり、極めて曖昧な関係性です。友達以上恋人未満という表現がありますが、金子脚本ではよく「〇〇以上〇〇未満」というバリエーションで言葉を組み替えながら、「○○以上」の関係性を掘り下げています。恋愛関係を曖昧にする意図が常に念頭にあるんですか?
金子:ご指摘されるまで気づかなかったことですが、そうかもしれません。不確かさや曖昧な揺れ動きの境界線を引き切らない方がドラマがありますよね。想像の余地ともいうべきか。それでいうとseason2では、辰之助の後輩ボディガードである原湊(藤原丈一郎)の恋を描こうか描くまいか悩みました。彼は一応、恋愛エースというキャラクター設定です。
湊がどんな人と結ばれるのか。これもまた視聴者の想像上で漂っていた方がいいんだろうなと思いました。彼が主役のスピンオフドラマ『恋を忘れて警護 240日』も配信中ですが、シーズン毎にヒロインがきては去っていくという寅さんスタイルを取らせていただきました(笑)。里夏と辰之助にはカップル感があるからこそ、湊は曖昧さを背負う。そんなスーパーポップなキャラクターとして存在しています。
――藤原さんが演じるキャラクター性は『ペンディングトレイン』にも増して明るいですよね。
金子:私はテレビドラマが日常生活の楽しみで、毎週の活力であってほしいと思っています。だからポジティブで楽しいものを必ず入れたいんです。そういう意味で藤原さんが入るとそこが必ず約束される。いつも助けられています(笑)。側に明るい子がいてくれることが辰之助の救いでもある。二人の関係性をseason2でも温められたことが嬉しいです。
――season2では新たな後輩キャラクター・三雲千早(成海璃子)が登場します。最初は辰之助とのリーダー争いで対立する熱血漢で、フロアを拡張した警備会社の階段で夜な夜なランニングに励む姿が印象的です。彼女の足元が画面上にアップで写る度にこのキャラクターも地に足はついているんだけれど、どこか影がある。本作中で最も陰影豊か造形だなと思いました。
金子:前作で辰之助の父親殺しの犯人だった漆原という宿敵を作った以上、それ以上の宿敵はもういないなと思いました。それで今度ははっきりとした悪ではなく、辰之助が戸惑い、信念が大きく揺らぐような善悪の境界線にいる人物として千早を造形しました。
さらに言うと千早は前作で復讐の思いに駆られている辰之助と重なってみえるキャラクターです。辰之助は里夏や湊たちがいたから線を踏み越えずに戻ってこられたけれど、千早は善と悪の間で揺らぎ続ける。辰之助からしても彼女の側にいる自分たちは何をしてやれるんだろうという葛藤がある。season2はそうした善悪の境界線で踏ん張り、時に苦悩しながら、盾にもなるボディガードの物語です。
ボディガードとして誰かを守るというのはどういうことだろうという問いかけを通じて成長を描く。これは岩本さんご本人にもお話ししました。誰かを守っていると思ったら、実は守られていた。それが前作だとすると、season2はそんな気持ちを誰かに返したい。いざ千早というバディが抱える過去に気付いた時、自分はどうしたらいいか。彼の中の問いかけになっていくように作り、最終的には誰かの心を守る話にしようと思いました。
――辰之助は人間関係のボーダーを踏み越えなかった。千早は踏み越えてしまった。辰之助の場合、そのボーダー上に常にいるのは警備会社の社長である塚本和江(松下由樹)でもあります。season2第2話での辰之助との会話で「単なる雑談」だからとアドバイスする和江の度量は、前作からさらに広くなっています。そしてこれは松下由樹さんでないと醸せないキャラだなと思いました。松下さんとは『ナースのお仕事4』(フジテレビ系、2002年)以来ですか?
金子:本当にお久しぶりで嬉しかったです。松下さんには、ハイブリッド型ドラマの基本は『ナースのお仕事』シリーズで学び、それを今回はオリジナル企画として実現できたこと、その両作品に松下さんにご出演いただけたことが幸せですとお伝えしました(笑)。松下さんはシリアスからコメディーへの転調でどんなワンアクション入れたら切り替えられるかなど、経験豊富、自由自在のお芝居をされる方です。このシリーズで改めて拝見して、ただただ感謝です。
――『ナースのお仕事』シリーズでは松下さん演じる婦長・尾崎翔子が「あさくらぁ!」と連呼するお馴染みのフレーズがありましたが、今回は「辰之助」と何度も名前を呼んでいます。
金子:『ナースのお仕事』から25年が経ち、面白い連動ですね(笑)。