当人、朝日新聞のコラムで「マニアックな作品になることは分かっていたから、爆発的な人気を呼ぶとは思っていなかったけど、正直、もう少し多くの人に観(み)て貰(もら)いたかった気はする。」と書いているが、悪いドラマではなかった。いや、丁寧に工夫を凝らして紡がれた一品だった。
主人公なのにいじましい役を演じた菅田将暉、こういうふうに生き延びていく人いそうだなあという汚れをとことん演じきった二階堂ふみ、絶対現実には存在しなさそうな清らかさを堂々と演じきった浜辺美波と神木隆之介たちに拍手を贈りたい。彼らだけでなく出演者全員に見せ場があった。

『もしがく』最終話より©フジテレビ
最終回では、小林薫が演じているにしては出番が少なかった喫茶店のマスターの謎が明かされた。西武劇場(現PARCO劇場)のカフェのマスターであったという過去が。ちなみに西武劇場には実際にカフェコーナーがあったが、女性がやっていたそうだ。
史実とそれっぽいこととフィクションを巧みに組み合わせたおもしろいドラマだった。三谷幸喜はたぶんシェイクスピアのような人だと締めたら、ちょっとよく書きすぎだろうか。

最終回にもサプライズ出演。よく見たら松本穂香だった。『もしがく』最終話より©フジテレビ
なお、史実では西武劇場は85年にPARCO劇場になる。三谷幸喜は83年、大学在学中に劇団「東京サンシャインボーイズ」を旗揚げしている。劇団名のサンシャインボイーズは三谷の好きなニール・サイモンの芝居『サンシャイン・ボーイズ』からとったもので、三谷がニール・サイモンの芝居を観たのが西武劇場の『おかしな二人』(初演79年、再演80年)だった。
『サンシャイン・ボーイズ』がテアトル・エコーによって日本で初演されたのは84年とされている。
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『もしがく』ドラマレビュー
<文/木俣冬>
木俣冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『
みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:
@kamitonami