優里は逮捕後、拘置所でDV被害者支援の団体や、精神科医の面会を受け、回復のためのケアを受けてきた。
そのなかで当初、支援団体の聞き取りに対して『夫をあんなふうにしたのは私のせいです』と伝えていたそうだ。その言葉からも、DV被害者である自覚がなく、雄大による洗脳状態にあったことがうかがえる。
杉山氏はこの事件の裁判を傍聴する中で、優里に残るDVの後遺症を強く感じさせる光景を目にしたという。
「裁判が始まる頃には、治療を受けたことで自身がDVを受けていたことを自覚できていた。つまり、雄大の洗脳が溶けつつある状態だったと聞いています。
しかし雄大の公判で、優里が検察側の証人として出廷した際、優里は刑務官に両脇をかかえられ、叫び声を上げながら入廷してきました。雄大から受けた洗脳の回復の最中でもなお、法廷でついたてを挟んだ先に、雄大がいるかと思うと恐怖で叫ばざるを得なかったのでしょう。
優里からすれば、かつて雄大からすりこまれていたことと真逆の内容を、法廷で証言しないといけないわけです。雄大の認知や価値観を、本人がいる前で否定しなければならないのは、相当な苦痛と恐怖だったはず。私自身、それだけDVの支配というのは根深く、それに抗うのは怖いことなのだと知らされました」
杉山氏は、この事件の取材を進める中で「虐待とDVの密接な関わりを痛感した」と振り返る。
「DVと虐待は同じ家庭の中で起きます。この事件が示しているのは、DV被害にさらされている親自身が恐怖と不安の中にいるとき、自力で子どもを守ることが困難になるということです。だからこそ、家族の周囲にいる人たち、特に支援者はDVと虐待の相関関係を正しく理解しておくことが不可欠だと考えています」
【杉山 春】
1958年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌記者を経てフリーのルポライター。『
ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館文庫)で第11回小学館ノンフィクション大賞受賞
<取材・文/佐藤隼秀>