――松永さんが「痴漢抑止」という社会課題に取り組むようになったきっかけを教えてください。
松永:2015年に私の友人が「自分の娘が痴漢に遭って困っている」と、SNSに投稿していたんです。娘さんは高校に入学した翌日から痴漢に遭い、それからほぼ毎日のように痴漢に遭い続けたそうです。
それから1年後、その女の子はすごくがんばって自分で痴漢を捕まえ、その後は裁判にもなりました。でも、痴漢と戦えるようになったから問題が解決したわけではない。彼女は「二度と痴漢に遭いたくない」と思うようになり、「痴漢は犯罪です。私は泣き寝入りしません」と書いたバッジを母親と一緒に作ったんです。
そのバッジにはすごく効果があって、つけ始めてから4か月間はまったく痴漢に遭わなかったそうです。
――それまでは、1年間遭い続けていたのに。
松永:はい。その話を聞いて「すごく効果があるんだな」と思ったのと同時に、いたたまれない気持ちにもなったんですね。お母さんが作ったバッジだからサイズはすごく大きいし、デザインも正直言うとださかったんです。誰に聞いても「これをつけて電車に乗る勇気はない」と言うほどで、バッジを作ったお母さん自身も「これをつけたら痴漢は引くだろうけど、周りの人も一緒に引くよ」と言っていました。でも、その女の子は「痴漢に遭うよりはマシ」と言って、身につけ続けた。
――インパクトが大きいし、このバッジをつけていたら痴漢に遭わなくなるとは思います。でも、かなりハードルが高そうですね……。

このバッジをつけて毎日電車に乗るほど痴漢被害に苦しんでいた
松永:実際にバッジの画像を見たとき、「この子は大人にも社会にも絶望してしまったんだな……」と感じたんです。そして、「そういう思いにさせてはいけない!」と誓いました。
そこで、「もうちょっと可愛くて誰でもつけることのできるバッジを作ろう」と思ったんです。この子を一人ぼっちで戦わせておきたくなかったから「もっと可愛い缶バッジにして、いろんな人にもつけてもらおうよ」って。
それでクラウドファンディングで缶バッジとデザインを募るお金をつくり、そこからプロジェクトが始まりました。
――もっと身につけやすいデザインにする。結果、ほかの女性も痴漢抑止バッジをつけるようになれば、同じ思いを持つ仲間が自然と増えていくことになりますね。
「この子は同意しているんだろう」と思い込む痴漢加害者
松永:はい。だけど、痴漢に遭って困っていたのは彼女だけではなかった。クラウドファンディングの担当になってくれた女性は、痴漢抑止バッジの原型の母娘が作ったバッジを見て「高校時代によく痴漢に遭っていたけれど、そこで『嫌だ』と言う権利は私にもあったんですね」とおっしゃったんです。
彼女は痴漢に遭っても、一度も「嫌だ」と言えなかった。そもそも、その権利があると考えたこともなかった。だって、子どもの頃は「大人の言うことを聞く子がいい子だ」って育てられるでしょ? 電車に乗って自分の体に当たってくる手を「混んでるから仕方がないのかな」と我慢していたら、スカートや下着のなかに手を入れてきたり、膣のなかに指を入れてきたり……。そうなると、恐怖と恥ずかしさで声を出せなくなります。その結果、「この子は逆らわないし嫌がらないから、痴漢に同意しているんだろう」と加害者側は勝手に思う。
特に高校生くらいだと、手がぶつかってきたときすぐに「これは痴漢だ」と気づくことができない。だから、私はよく「手が3回当たってきたら痴漢だよ」と言っています。痴漢側も、スカートのなかにいきなりガッと手を入れてくるのはめずらしい。相手が嫌がらないかどうかを調べるために、手の甲で触ってみたりするんです。これを「ノック行動」と言います。
そのときに「偶然かな?」と思ってじっとしていると「この子は逆らわないみたいだ」と手のひらで撫で回したり、スカートのなかに手を入れたり、段階を踏んできます。こんなふうに「この子はオッケーなんだ」と思われると、翌日からは本当にひどいことばかりされてしまう。
そういった経緯もあり、高校生の女の子を一人ぼっちにしておきたくなかったので、痴漢抑止バッジのクラウドファンディングを行いました。そうしたら、批判も多かったけれど予想以上に応援してくれる方も多かった。痴漢被害を受けたときのつらさを訴える声も多かった。だから、「これは一回で終わらせちゃいけないな」と思って社団法人を立ち上げました。