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毎日のように痴漢されていた高校生→“バッグにつけるアイテム”で4ヶ月被害ゼロに。バッジ開発者の願いとは

痴漢抑止バッジを目にした加害者がハッとする“認知の歪み”

――バッジが可愛いデザインになっても、やはり痴漢は躊躇するものですか?
痴漢抑止 バッジ

すごく可愛らしいデザインになった。カバンにつけるとちゃんと効果がある

松永:はい。当センターは2000人を超える性犯罪加害者の治療に関わってきた専門家の斉藤章佳先生にアドバイザーをお願いしています。斉藤先生が元加害者の男性に「こういう缶バッジをつけてる子がいたらどうする?」と聞いたら、その彼は「『嫌だ』と言ってる子にはしませんよ」と答えたそうです。 ――それは、先ほど伺った「ノック行動」とつながりますね。 松永:そうですね。いや、なんか……斜めに行ってますよね。「『嫌だ』と言ってる子にはしない」って、女性が100人いたら100人全員が「嫌だ」と言うに決まっているんですけど。明らかに“認知の歪み”がありますね。 ――バッジを見て、そこで初めて痴漢はハッとする……ひどすぎるボタンの掛け違いです。ちなみに、痴漢抑止バッジは無償配布ですか? 松永:2022年3月から無償配布しています。今まで、2万9394個(2025年9月末現在)のバッジを配布してきました。  ある日、バッジの送付先の住所を見たら養護施設の方から申し込みが来ていました。子どもって自分のお小遣いだけでは通販なんてできないじゃないですか? ネット通販にしたらクレジット決済にも対応できなくなる。親や周りの知人に相談できない子がバッジを入手するために、無償配布できるようになって本当にうれしいです。

女性が「男はみんな痴漢予備軍」と思ってしまう理由

――ここで、別の角度からの質問もさせてください。私は男なので男性側の意見です。もちろん痴漢は憎むべきものですが、女性のなかには「男はみんな痴漢予備軍」という意見を持つ人もいます。そういう声を聞くと「いや、そんなことはないのだけどな……」という気持ちも正直あります。 松永:はい。 ――やはり、そう考えている女性は多いものですか? 松永:正直、この活動を始めるまでは私も「男性は普通に痴漢をするもの」と思っていました。私が生まれて初めて痴漢に遭ったのは8歳のときで、それからずっと痴漢に遭い続けてきました。だから、そういうものと思い込んでいた。でも、活動を始めてみるとクラウドファンディングの3~4割は男性からのご支援だったんです。  あと、新しいバッジのデザインを考えてもらうために毎年開催している「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」に応募してくれるのも、3割ぐらいは男子学生です。当センターに寄付をしてくださる人のなかにも男性はいっぱいいます。  で、私が「今、こういう活動をしてるんだよ」と痴漢抑止バッジの話をすると「もし、『痴漢から守ります』というバッジを作ってくれたら、俺はそれをつけて電車に乗るよ」と言ってくれる男性もすごく多かったんです。 ――第三者がつける「痴漢から守ります」というバッジ、それはいいかもしれませんね。 松永:「『痴漢から守りますバッジ』を作ってほしい」という声は、活動当初からありました。私も「それはいいアイデアじゃないか」と思って、バッジの原型を作った母娘へ伝えたんです。でも、即答で「ダメ」と言われました。 ――なぜ? 松永:理由は、「痴漢がそのバッジをつけながら痴漢をしてしまうから」。「痴漢から守ります」と書かれたバッジをつけながらいつもどおりに痴漢して、被害者の女性が「この人、痴漢です!」と言っても「俺はこういう活動をしてるんだ、そんなことするわけないだろう」と言い逃れてしまう……そんな恐れがあります。 ――なるほど……、味方のふりをして近づいてくる可能性があるのですね。 松永:で、この話をするとみなさん同じように驚きます。その驚いている表情を見ると、「この人は痴漢をしようなんて考えたこともないんだな」とわかりました。だって、痴漢だったら悪用の方法を真っ先に考えるでしょうから。だから、大半の男性は痴漢をしたことがないと、活動を始めてからようやく信じられるようになりました。 ――男性側からすると「それは当然」という話なのですが、そう思わせてしまう体験が女性側にもあったのでしょうね……。 松永:あるウェブサイトが数百人の男性を対象に「意図的に電車の中で痴漢したことがありますか?」というアンケートを採ったんです。すると、9.7%の人が「はい」と答えていたんですね。  仮に男性の10%が痴漢をする加害者だとしても、その人は周囲に「俺、痴漢してるんだ」とは言わないでしょう? だから、男性からすると「俺の周りに痴漢なんかいない」となる。でも、たった一人の痴漢がいるだけで数百人の女性が被害に遭うんです。だから、被害の数と痴漢の人数の差が大きすぎるんです。 ――ああ、そうか……。一人の痴漢がいたら、×数百ぐらいの被害者がいるかもしれないんですね。 松永:はい。現状では加害者が治療につながるまでに平均約8年かかっているそうです。その間、ずっと痴漢行為が繰り返されているから、一人の痴漢が捕まるまでの被害者の数は少なく見積もって数百人と言われています。
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痴漢抑止バッジで痴漢と関係のない学生も活動に巻き込んでいく
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