夫は裏切り、息子は暴走…AVの“母親役”エキストラが楽しい
【女性エキストラが見たAV収録の現場 Vol.4】
AVの登場人物で一番幸せな人って、誰でしょう。たぶん男優さんですよね。どんなストーリーだろうが相手といたせる役なのだから、幸せの極みです。視聴者は(気持ち)いい思いをするために見ているので、その代理人である男優さんが一番いい思いをしなければいけないわけですよね、納得納得。
でもその他の登場人物は、けっこう不幸なことが多いです。私がもらう役といえば、ナースのほかに多いのが母親役です。
再婚相手(夫)が、自分の娘に乱暴
とか
息子が伯母(私の姉妹)と関係
とか
子ども同士が親(私たち)に隠れて関係
とか
再婚相手(夫)の息子と自分の娘が関係
とか
そんなシチュエーションで登場します。
地味に不幸です。子ども同士が関係したとかだと「ホント教育なってなくてごめんなさい」だし、夫が自分の姉妹や子どもと関係する話なら「裏切られたかわいそうな奥さん」だし。
ナース役は「ひたすら業務に邁進する真面目な人」という役なので、役柄的な幸せ度は高いかもしれません。ですが演じてて楽しいのは断然お母さん役です。
AVのシナリオって、細かいセリフが決まっていないことも多く、そういう場合はその場で監督の指示に従ってアドリブを入れます。これがなんといっても楽しいんです。
ナース役のアドリブって難しいんです。専門的なこと言わなきゃいけない気がするけどよく知らないし。でもお母さんなら想像しやすいです。
例えば「受験生の息子が妹に薬を盛っていたずら」というストーリーがあったとしましょう。「どうして息子はそんなことをしたのかな」と考えます。恐らく、受験に対するプレッシャーが大きかったのでしょう。母親役としては、ぜひ息子にそんな切羽詰まった気持ちになっていただきたい。
「××ちゃん、勉強はしてるの? お母さん、浪人なんて恥ずかしくていやよ!」
「そんなことはいいのよ、それより勉強しなさい!」
とか言ってさんざん息子役の男優さんをいじめます。
これ、自分が親にじめじめ言われてきた内容です。こんなところでリベンジできて最高です。
また、自分の娘と再婚相手の息子がこそこそ隠れて関係、なんて話の時は、
「××くん、お勉強がんばってる? お母さん、夜ご飯に精のつくもの作るわね!」
とか余計なことを言ったりします。つい流れで姉と弟がやっちゃう、なんて話の時は、弟さんにその気になっていただくために、
「○○ちゃん(姉)ったら、最近すごい下着履いてるのよ! お母さん、洗濯の時にびっくりしちゃった」
なんてあおったりします。なんにも知らないお母さんだからこそ微妙なことが言える、という解釈です。こういう機転を利かせたっていう自己満足が楽しかったりします。

そういえばAVの男優さんが若い役をやる場合、受験生役の比率がものすごく高いですね。受験生ってAVをよく観てるんでしょうか。時間はあるし鬱憤はたまるしで、最高の娯楽なんですかね。
エキストラとして回ってくるのはエロに絡まない役どころなので、お母さんとなるとどうしても「裏切られた」かわいそうな役、ということになります。シナリオを読むと「あはは、またかわいそうな役だ!」と思います。
ちなみにAVで一番不幸な役は女優さんです。意志に反して乱暴される話がけっこう多いんです。シナリオを読むと「実際にこんなことされたら、一生もののトラウマだな」と思います。AVを観るのはかまいませんが、男性たちにはファンタジーだと思って別腹認識して欲しいですね。
<TEXT/和久井香菜子>
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【和久井香菜子(わくい・かなこ)】
ライター・イラストレーター、少女漫画コンシェルジュ。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌などで執筆
AVの母親役は、ナース役より楽しい
受験生の息子をいじめる

AVはつくづくファンタジーだ
和久井香菜子
ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表



