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小室哲哉のどこが“天才”だったのか?

 1月19日の会見で突然発表された小室哲哉(59)の引退。週刊文春が報じた不倫騒動から急転直下、予想外の結末を迎えました。

 くも膜下出血で倒れた妻KEIKO(45)の介護に加え、自身も肝炎や突発性難聴を患うなどしていたようで、「ちょっと疲れ果ててしまった」と語る姿に、ファンのみならずショックを受けた人も多いのではないでしょうか。


 そんなわけで、ワイドショーや芸能ニュースが取り上げるのはプライベートのことばかり。でもそれだけで引退をまとめてしまうのは、あまりにもかわいそうですよね。

 そこでここからは、90年代を席巻したプロデューサー・小室哲哉のちょっと奇妙でズバ抜けていた音楽を振り返ろうと思います。

「ビーイング系」時代から、小室哲哉時代へ



 まずはTKサウンド以前の状況を押さえておきましょう。オリコンの年間チャートを見ると、93年は小室作品は年間トップ100の中に1曲もないかわりに、ビーイング系と呼ばれたアーティストの作品が多くを占めていることがわかります。B’zとかZARDとかWANDSとかDEENとか大黒摩季とかT-BOLANとか、なつかしい面々ですね。

 ところが翌94年になると状況が違ってくる。まだ曲数は少ないのですが、上位にいるのは小室哲哉プロデュースの篠原涼子やTRF。ここを足がかりに、95年以降の安室奈美恵やglobe、華原朋美など怒涛のTKブームが巻き起こるわけですね。

CRUISE RECORD 1995-2000

globe 『CRUISE RECORD 1995-2000』

 このビーイング系からTKサウンドへの転換をざっくり言うならば、軽快なハードロック調の歌謡ポップスから、ダンスミュージックへの移行期といった感じになるでしょうか。

 実際に踊れるかどうかはともかく、日本のポップスにそれっぽい雰囲気が漂い始めた時期ではある。象徴的なのはKABA.ちゃん(48)が所属していたdosという3人組。曲から衣装、振り付けに至るまでアメリカの女性グループ「TLC」の丸写しで、むしろ小室哲哉の潔さと大胆さに恐れ入ったものでした。

dos

「日本版TLC」としてプロデュースされたdos(1996-1997)

 このように大きな流れで言うと、小室氏の功績は「うた」でなく身体を動かすものとしての音楽を売った人ということになるかもしれません。しかし、だからこそ彼独特の“ヘンなメロディ”が特徴の曲も味わい深いのです(また、文法無視の歌詞の言語感覚もぶっ飛んでいます)。

 妙にクセになる曲って、今のチャートだとあまりないですもんね。

妙なトリップ感がクセになるTKサウンド



 その意味で、globeの「Perfume of love」(98年10月7日リリース)は圧巻でした。氏の全盛期を少し過ぎたころなのでセールス的には目立ちませんが、2018年の今聴いても新鮮に響きます。

 感傷的になりすぎず、適当なところで美しいメロディを切ってしまうドライさが心地よいのですね。もうちょっとで泣けるのにってところでおあずけにされてしまう感じ。ここにいつも通り前フリのない転調が全開なのですから、聴き手は首ねっこつかまれてぶん回されるような酩酊感を味わうことになる。

 悪酔いですが、確かにトリップできるのです。ムカムカしているのに、うっとりしているのです。


 ダウンタウンの浜ちゃんに書いた「Going Going Home」みたいに王道の曲も捨てがたいところですが、個人的には「Perfume of love」をベストTKソングに挙げたいと思います。

ヌメッとしたユニークな歌声



 さて、もう一点触れておきたいのは、小室氏のバックボーカル。TKサウンドを印象づける要素は色々あるのでしょうが、小室氏の肉声もなかなかユニークでした。

 かつてポール・マッカートニー(75)が亡妻リンダのコーラスについて、「音は合ってるんだけど、どこかキーから外れているようで面白いんだ」と語ったことがあります。小室氏のボーカルにも、それと似た雰囲気があるのですね。

 これは華原朋美の「LOVE BRACE」や、globeの「FACES PLACES」などで聴くことができます。上手な人のハモリだと味気なく通り過ぎてしまうところ、小室氏のヌメッとした歌声がいい隠し味になっているのですね。それでも歌心を感じさせるあたり、メロディメーカーなのだなと改めて思い知るのでした。


 今回の引退はあまりにも突然のことでしたし、残した功績にふさわしくない寂しい最後になってしまいました。もっとも、彼を服部良一や中村八大、筒美京平などの大作曲家と並べるつもりは毛頭ありません。

 しかし、こんな奇妙なソングライターは日本でなければ生まれ得なかっただろうと考えると、やはり忘れたくない存在であるのも確かです。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>

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