Entertainment
Lifestyle

木村多江『あな家』の、昭和のモテテクが恐ろしい。わざとズブ濡れに…

ときには愛する人のため、髪を振り乱し全力疾走

 綾子の愛情には客観性がなく、目的のためには手段を選ばない感がある。けれども、恋に埋没(まいぼつ)している心地よさは彼女自身にもあるのだ、おそらく。若いときに何もかも失ってもいいと思える恋をしたことがないのだろう。  彼女の心は、たまたま現れた秀明という男にすがりつき、ここから救い出してほしいという渇望で充満しているのに、言動ではちらちらと支配感が見え隠れするのも興味深いところだ。  第8回目の最後では、元妻の真弓(中谷美紀)が届け物を持って秀明のアパートを訪ねるところを、やはり秀明の元へ行こうとしている綾子が見てしまい、近道を走りまくって先に秀明の部屋に合い鍵で入り込む。このときの綾子は、髪を振り乱しスカートの裾をたくしあげて全力疾走をする。「魔性」というよりは、やはり目的のために手段を選ばない強欲な女に見える。もちろん、その裏には彼女の悲しい過去があるようだが……。  たまたま帰ってきた秀明と真弓がアパート前で顔を合わせる。元妻に未練がある秀明が「来てくれたの」と嬉しそうな顔をしたとき、部屋の中からドアが開き、「お帰り」と落ち着いた表情の綾子が迎える。まるで毎日、そうしているかのように。その顔を真弓に見せつけるために、綾子は鬼の形相で全力疾走をしたのである。  秀明を見つめる潤んだ目と、元妻の真弓を見据える目の表情ががらりと変わるのがわかって、綾子、おそるべしと痛感する。一般的に「魔性の女」というと、無意識のうちに男を振り回す魅惑的な女という意味合いで使われることが多い言葉だが、本来の意味は「悪魔の持っているような、人をたぶらかし迷わせる性質(広辞苑)」だから、そういう意味では、「魔性の女」という言い方も当てはまる。  ただ、彼女の抱える大きなトラウマのようなものが全身からにじみ出ていることもあって、どこか憎みきれない女になっているところは木村多江の演技のたまものなのだろう。 <文/亀山早苗> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 【亀山早苗】 フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数
亀山早苗
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
1
2
Cxense Recommend widget


あなたにおすすめ