アメリカ先住民の“いま”と向き合う映画『ウインド・リバー』
7月27日(金)に公開される『ウインド・リバー』は、これまでのアメリカ先住民を扱った映画とは一線を画しており、
“いま”の先住民が陥っている問題に焦点をあてています。
『ウインド・リバー』より
ワイオミング州の先住民の保留地ウインド・リバーを舞台に、先住民の少女ナタリー(ケルシー・アスビル)が殺された事件を、野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)と、FBIの新米女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)が追っていくサスペンスです。
『ウインド・リバー』より
手に汗握るスリリングなストーリー展開も見ものですが、まず、深い雪に閉ざされた山岳地帯に保留地があることに驚きます。事実、
1790年から1834年まで、先住民たちを保留地に強制移住させる法律がありました。たとえ平原に住む狩猟民族であっても、狩猟に向かない地へと追いやられ、不毛な土地で無理やり農業に従事させられたのです。
そのうえ、先住民が受け取るはずの年金や食料はその多くが保留地監督官などによって横領されていたため、先住民はいつも飢えていたのだとか。
保留地に先住民を閉じ込めて徐々に伝統をなくさせて、白人化していくのが目的でした。
『ウインド・リバー』より
現代の保留地にも産業がないことから、多くの先住民が年金を捨て保留地を出て、アメリカ社会に溶け込もうとしているのだとか。一方、保留地に残った人々は僅かな年金をもらい貧困にあえいでいます。
本作に登場する少女ナタリーの父マーティン(ギル・バーミンガム)は娘の死を悼むために、
自己流で部族の儀式らしいものを行いますが、そのやり方が分からないと自嘲気味に語ります。この場面には保留地に住む先住民がアメリカ人化してしまった様子が浮き彫りにされています。
『ウインド・リバー』より
また、ナタリーの兄を含め保留地の若者たちが将来を切り開こうとする気力もないまま、ドラッグやアルコールに溺れている痛々しい状況も映し出されています。先住民をロマンティックに描くわけでも、悪役として描くわけでもなく、保留地の”いま“と真摯に向き合った本作。凍てつく雪の風景の美しさと戦慄の殺人事件が絶妙に溶け合い、最後までスクリーンから目が離せないおすすめの傑作サスペンスです。
『ウインド・リバー』より
インディアンジュエリーが白人に人気がないのはなぜなのか。自分たちの先祖が殺戮し、不毛の地へと追いやった先住民のアイデンティティを、軽々しくファッションにはできないーーそんな風に彼らは無意識に感じているのかもしれません。
<TEXT/此花さくや>
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此花わか
映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米ACS認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。セックス・ポジティブな社会を目指してニュースレター「
此花わかのセックスと映画の話」を発信中。墨描きとしても活動中。twitter:
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