Q:精子形成障害(精子が良くない)とは、具体的にどのような場合でしょうか。また、その場合には根本的な治療がなく、現状では顕微授精に依存しているということでしたが、黒田先生は どのように治療をされますか?
黒田:精子形成障害ということは、単純に精子の数が少ないとか運動率が低いと言うことではなく、ほとんどの場合、質の劣化、すなわち機能異常を伴います。そして異常の種類は、十人十色、極めて多様です。
ここでお話しておかなくてはならないことは、顕微授精はあくまで精子の量が少ないのに対処する方法であって、
精子の質の問題に対処することはできません。実は、このことが顕微授精のリスクそのものであり、
顕微授精には受精してはいけない精子を授精させてしまうリスクがあるのです。
不妊治療は、ただ妊娠すればいいのではなく、生まれた子どもさんが心身ともに健康に成長できることが優先されなくてはいけません。ですから、最初に精子機能の精密検査を受けていただき、不妊治療が可能か否か、さらに顕微授精を含めてどの治療法がふさわしいかを事前確認しておくことが安全性向上につながります。
私のクリニックでは、精子側の努力より、なるべく自然に受精できる環境を作ります。

不妊治療専門施設の黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)院長の黒田優佳子先生
Q:最後に、自宅で採精(精液の採取)して持ってくることを許可しているクリニックも多いですが、どのように採取するのが良いのかを教えてください。
黒田:おっしゃるように、一般の施設では、自宅での採精を許可していますが、感染予防の観点から自宅での採精はお勧めできません。とくに夏場は、自宅から持参する間に精液内の常在菌が繁殖するというリスクもあります。逆に、冬場は、精液を冷やさないように注意(30℃から体温程度を保持)しなくてはなりません。
また、自宅での採精を避けていただきたい最も重要な理由は、精子という細胞の特性(特徴)にあります。
精子は、体外に出た瞬間から機能が変化していくデリケートな細胞ですので、高品質の精子を確保するという観点からも、その生理学的な変化をも含めて慎重に管理して高品質の精子分離(選別)をしなくてはならないのです。
ですから、私のクリニックでは院内の採精室を利用していただき、自宅での採精を認めておりません。
ただ、院内での精液の採取は心理的に難しい方もいらっしゃいます。その場合は、ご自宅または近隣のホテル等で採精いただき、
容器に何種類かの抗生物質を含む培養液を加えて1時間以内にお持ちいただきますように指導しています。
以上の点を理解している医療機関は極めて少ないのが現状です。
【黒田優佳子(くろだゆかこ)医師】
医学博士。慶應義塾大学医学部、同産婦人科学教室大学院卒業。ヒト精子研究の第一人者。東京大学医科学研究所研究員、女性初の慶大産婦人科医長を経て、2000年 自身の基礎研究に基づいた最先端の知識と技術を駆使した不妊治療を実現するため、独立。現在、黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長
<取材・文/ジャーナリスト・草薙厚子>
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ジャーナリスト。元法務省東京少年鑑別所法務教官。著書に『ドキュメント 発達障害と少年犯罪 』『
本当は怖い不妊治療』『となりの少年少女A』など多数