一度食べると後戻りできなくなる危険なカレー味の菓子って?/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」
【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.34 茨城県「半熟カレーせん」】
今回のテーマ食材は「煎餅屋仙七」の「半熟カレーせん」という菓子である。
この菓子はあの「アメトーーク!」で紹介されたこともあり、その時の雨上がり決死隊の宮迫氏のコメントは「カレーです」だったそうだ。
それは名前の時点で何となくわかっていたことだが、とにかくカレーという看板に偽りがないことだけはわかった。
では一番気になるであろう「半熟」とは何かというと、生焼けというわけではなく、所謂「ぬれ煎餅」だ。
つまりこの半熟カレーせんは、カレー味のぬれ煎餅ということである。
まず、ぬれ煎餅とは何かというと、焼いた後にタレにつけた煎餅で、しっとりした食感が特徴である。だがこの「しっとりした食感」というのは悪く言うと「湿気(しけ)っている」とも言える。
しかし、食に関しても人間は様々な性癖を持っている。
ポッキーのチョコ部分をベロベロに舐めてプリッツにしてから食ったり、アメリカンドッグの棒にこびり付いているカリカリ部分をコレクションしたり、バターを股間に塗ったりと、スタンダードな食い方を無視した方が美味い。もしくは気持ちいいと感じる人間がいるのだ。
カップラーメン一つをとっても、湯を入れた瞬間から食い始めるバリカタ派がいるかと思えば、原料に戻るまで伸びさせてから食う奴がいたりと、様々な変態性を発揮する。
その中で言えば「菓子はちょっと湿気ったぐらいが好き」というのは割とメジャーな癖である。
そんな癖を持つ者からすれば最初から湿気っている「ぬれ煎餅」はまさに垂涎の商品なのだが、このぬれ煎餅が登場したのはわずか50年前である。
ちなみに煎餅自体の起源は縄文時代らしい。桁(けた)が違い過ぎる。
しかも登場した当時は「湿気っている」という至極当然のクレームがつき、なかなか受け入れられなかったという。「湿気り好き」は確かに存在するが、やはり「湿気ってない方が良い」という人間の方がマジョリティなのだ。
それが徐々に口コミなどで広まり、「これはこれであり」と普通の商品として受け入れられたのは、本当につい最近のことのように思える。マイノリティが市民権を得るには時間がかかるのだ。
人権問題の話をしているみたいになってしまったが、煎餅の話である。
ぬれ煎餅の「しっとりした食感」が市民権を得るには時間がかかった
「カレー」というパワーに「油」というパワー「暴力×暴力」
この半熟カレーせんも、煎餅をカレーダレに漬けて、ぬれ煎餅食感を作りだしているのだが、焼きではなく「揚げ煎餅」なのがポイントだ。 「カレー」というパワーに「油」というパワーをぶつけているのだ、いわば「暴力×暴力」である。強くならないはずがない。 しかし、そんな尖(とが)りきったスタイルでありながら、食感は「やわらかめ」なのである。 ぬれ煎餅というだけでも、好事家にはたまらないものがあるだろうに、それにカレー、さらに油ときたら、これはもはや合法かどうか怪しいレベルになってくる。 その予想通り「陳列棚にあった奴を全部買い占めてしまった」という、それなしでは生きていけなくなった人の生々しいコメントが「お客様の声」としてHPに掲載されている。
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