戦場ジャーナリストの「自己責任」なんて考えたこともない
――日本では危険地域へのジャーナリストの取材では、誘拐されたりすると「自己責任」「行く方が悪い」という意見が多くあがります。監督自身も危険地帯への取材に行かれますが、そういったことを言われたりしますか? また、その意見についてどう思いますか?

(右)マシュー・ハイネマン監督
ハイネマン監督「それは日本の文化的なことかもしれないですね。私は、誰の責任かなんて正直考えたことはないですね。メリーも日本のジャーナリストもやっぱり、『その物語をみなさんに伝えなければ』という気持ちに突き動かされて取材をしていると思います。
世界中のダークなリアリティに光を当てたいというのが私たちのモチベーション。当然それにはリスクがともなうわけで。
メリーだって別にアメリカに対する愛国心で取材に行ったわけではなく、そこで起きていることを世界に伝えなければというのが個人的なモチベーションとしてあったはず。それがジャーナリストなんです」
――「戦争を取材して、私たちは何かを変えることができるのだろうか」というメリーのセリフがあります。メリーが最後に取材したのはシリアですが、シリア問題はまだ解決していません。
ハイネマン監督「私自身も自問自答をするときがありますが、コアな部分ではメリーも私も、自分たちがやっていることには意味があると信じています。
戦争はどこか遠いところで起こっている別世界としてではなく、実際に起きているリアルな現実……。戦争では普通の人々が死んでいるんです!
政治的・地理的な解説ではなく、戦争に“人間の顔”をもたせるのが私の役目……。メリーも同じように、シリアの普通の人々の惨状を世界へ伝えたかった。そのために、彼女は命を捧げました。
でも、シリアの紛争が未だ続いているということをメリーが生きていて知ったら本当に辛いでしょうね……。ある意味それが、この映画の一番の悲劇かもしれません」