卒業式当日、会場には色とりどりの袴姿がたくさん。パッと見た感じ、スーツ姿なのは男性のみでした。
「覚悟していたつもりでしたが、心がひるんでしまって。顔見知りの人も、けげんな顔でこちらを見ているように感じました。スミっこの席に座り、式典が終われば、華やかなドレスに着替えられる…そう思っていました。」
式が終わり、準備していたドレスに着替えた亜沙子さん。パーティーのために貸し切った店に着くと、エレガントなドレスの女性がそろっていて、ホッとしたと言います。
「袴を着なければいけない決まりはないのですが、浮いてしまっていたと感じた分、ドレスコードがある会場は安心できました」
誘ってくれたTさんの周りには、男女が集まっていて楽しそうに見えました。最後の日だし、良い思い出になればと勇気を出したのですが…。
「Tさんのところへ行って話しかけると、冷たいものでした。彼女の周りにいた女性が『なんでスーツだったの?』と質問したのを発端に、変人扱いが始まってしまい…。『和装が似合わないとか?』『袴を用意するお金がなかったの?』『堂々とスーツで来れるって、逆に尊敬する』なんて言われてしまったんです。
Tさんは、みんなと笑っているだけでした。返答に困った私は、その場から立ち去りました」
しばらくカウンター席に座っていましたが、むなしくなって途中で店を出ていったのでした。
「大学生活で親しい友人を作れなかったのは事実です。そんな中、パーティーに行こうと思ったのが浅はかだったのかもしれません。
だけど、今になって思うんです。当時は服装で浮いているのが悪いと思い込んでいました。でも、卒業式にスーツって、マナー違反ではないはず。パーティーでも、私はドレスコードを守りました。なぜスーツで参加したことをいじられなければならなかったのでしょう…」
服装で肩身の狭い思いをしたという亜沙子さん。同調圧力の表れだったのかもしれません。あるいは、「大学生活になじめなかった」という思いが、卒業式の苦い記憶に凝縮されているのかも…。
いろんな事情の人がいて、いろんな嗜好の人がいる。それを受け入れるのが当たり前の社会になれば、もう少し生きやすいのかもしれませんね。
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冠婚葬祭・式典のトンデモエピソード―
<文/西田彩花 イラスト/ただりえこ>
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美容ライター。美容薬学検定1級、コスメコンシェルジュ(日本化粧品検定1級)、メイクアップアドバイザー検定資格保有。マスコミ系企業に在職中美容資格をいくつか取得し、美容ライターとして独立。
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