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“地獄のような離婚”で知った、夫婦が「向き合いすぎない」ことの効用

この家の息子で、本当に良かった

 実家に着き、父親が車を車庫に入れている間に、土岡さんが先に車を降りた。土岡さんが実家の玄関ドアを開ける。 「ぱあっと、母の料理の匂いがしました。みりんと醤油と鰹だしの混じった、あの匂い。母がエプロンで手を拭きながら玄関までパタパタと出てきて『おかえり』。僕はたまらなくなって、わびようと何か言いかけたんですが、母は笑顔のままさえぎって『ちょっと早いけどご飯にしようか。お父さん呼んできて』って。また、泣きそうになりました」
写真はイメージです

※写真はイメージです(以下同)

 夕食には土岡さんの好物ばかりが食卓に並んでいた。その献立について、土岡さんが嬉しそうに語る。両親の話をしている時の土岡さんは本当に幸せそうだ。 「父が食卓につくと、ビールの中瓶が2本出てきました。父は健康のため数年前から酒を控えていましたし、母は下戸なので、僕のために買って用意してくれた2本です。ところが、グラスが3つあるんですよ。父はともかく、母は一滴も飲めません。なのに母はちょっといたずらっぽく笑って、『今日はちょっとだけいただこうかな』って

父の余計なひと言を「草餅」で遮る母

 乾杯の音頭は土岡さんの父親。「今年も一年、家族が健康で無事にすごせてよかったな」。そこに母親が「息子も無事に帰ってきたしね」と重ねた。 「僕は人生最悪の1年だったので、健康でも無事でもない。離婚のストレスでひどい顔をしていましたし、アバラが浮き出るほどげっそり痩せていた。なのに、まるでそんなことなんてなかったかのように、2人とも満面の笑顔を向けてくれる。なんて偉大な両親だろう、この家の息子で本当に良かったと、心から思いました」  その後も土岡さんの両親は、土岡さんに離婚の理由を何ひとつ聞かなかった。相手や相手の親とは揉めていないか、お金に困っていないか、通院していたそうだが体調は大丈夫か、と聞くのみ。 「ちょっとおもしろかったのは、夕食の終わりがけに交わされた会話です。父が離婚について『ふたりとも仕事が忙しかったから、すれ違ったんだろうな』と言ったので、僕がそうかもと答えると、父がささやくようなかすれ声で、こう言いかけました。『次はもっと家庭的な人を……』。すると隣にいた母が、すかさず父の言葉を遮って『買ってきてくれた草餅、いただきましょうか』って(笑)。めちゃくちゃ雑に話題を変えたんです。あのやり取りには、妙に癒やされましたね」
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ブラウン管を見つめる両親が嫌いだった
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