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何のために「貞操観念」は存在するのか/島本理生×鈴木涼美対談<前編>

ミスコンとキャバクラ

鈴木:私は社会学の研究室にいたから、フェミニズムの勉強もしてきたんですが、最近のフェミニズムの再興については、いまいちしっくりこない部分もあるんですよ。貞操観念もそうですが、女性が、自分たちを縛り付けてきたと感じているものが、必ずしも自分を縛るものではなく、時に自分を守ってくれるものでもあったという視点が欠落しているような気がして。ちなみに、島本さんはミスコンって出たことありますか? 島本:いや、もちろん出たことはないですけど(笑)、大学時代に友達がミスコンの運営スタッフをやっていて、「ミスコンに出たいっていう女の子が全然いない」と困っていたのはよく覚えています。私は立教大学出身なんですが、立教のミスコンていったら女子アナの登竜門みたいな感じだし、出たい子たくさんいるんじゃないの?って。でも、よく考えてみたら、そりゃそうですよね。だって、普通に生活してれば「かわいい女の子」でいられるのに、わざわざミスコンに出て上だの下だの順位付けされたくないですよね。 鈴木:私は主催サークルの人に「ミス慶応に出てください!」って言われたことがあるけど、「ただし君のエントリー写真は顔じゃなくて胸でお願いします。胸だったら君は俺のなかでナンバー1!」って……(笑)。ミスコンみたいに順位付けされることって、女性にとっては楽しくもあり苦しくもありますよね。  キャバクラでも売り上げベスト3とか発表されるけど、バックヤードに行くと一応最後の順位まで見られるんですよ。で、時給より稼げていない人は赤字だから実際赤い文字で名前が書かれていて「赤文字キャスト」と呼ばれるんです。そうすると、もともと大してやる気なんてなかったはずなのに、赤文字になりたくないからという意地で出勤を増やしたり、昼の仕事を辞めて本腰を入れたりする子が出てきたりする(笑)。 島本:私は「楽しくもあり苦しくもあり」というのにはちょっと懐疑的なんです。もともと順位をつけて勝敗にこだわるのってどちらかといえば男性的なものじゃないですか。一方で、女性が男性アイドルに求めることって、勝敗ではなく、「グループで仲良くしていてほしい」ということだったりする。双方の求めるものや幻想が、じつは反転していると思うんです。

男の目線が介在することで女同士の関係性が変化する

鈴木:『夜 は お し ま い』の2つめの短編「サテライトの女たち」は、中年男性の愛人をしている女の子が、おじさんからお金をもらってサディスティックなプレイにつきあうという話ですが、ここでも、愛人としておじさんのプレイにつきあう女の子と、雇われてそのプレイを見学させられる女の子二人との間にヒエラルキーが生まれていますよね。 島本:女同士のマウンティングを描きたかったんですが、実はその場を支配しているのは、お金を払って女の子たちにそういうことをさせているおじさんなんですよね。第三者によって、女の子たちのヒエラルキーが変わったり、敵になったり味方になったりするんだけど、そのことに対して違和感というか危機意識があって。 鈴木:男の目線が介在することで女同士の関係性が変化するというのはすごくよくわかります。  高校時代にパンツを売ってたときのことなんですが、マジックミラー越しにおじさんが女の子を選んでどの子からパンツを買うか決めるんです。それで、指名されると生脱ぎして売って、売れるとどんどん伝票が溜まっていって儲かっていく。その外から男性の視線が入るということによって、女の子同士のヒエラルキーが明らかに変わるんですよ。普段はギャルのほうが威張ってるけど、ギャルより清楚系の子のパンツのほうが売れるから、地味だけどパンツがたくさん売れてる子の態度が強気になっていったり。  でもどんなに売り上げがあってもダサい子は女同士の羨望の対象にはならなかったり。女の子は番号で呼ばれて、私は2578番だったんですけど、2251が売れた、次は2578が売れた、とか、そこにいる者同士が、自分の番号が呼ばれていない時でも、誰が売れたかというのは意識しますね。
島本理生×鈴木涼美

「支配している側のはずの男も満たされているわけではなくて、むしろ滑稽だったりする」(鈴木)

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男性も満たされてはいない
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