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何のために「貞操観念」は存在するのか/島本理生×鈴木涼美対談<前編>

「場を回したい」男性の承認欲求

島本:場を支配する男によって女性に明確な順位がつけられてしまう。みんな違ってみんないい、とはならない。 鈴木:普段は清楚系でもギャル系でもどっちでもいいじゃん、好みの問題でしょ、と思っていても、その場では明確に売り上げの差がつくわけですからね。そうすると、自分たちが好きな格好である、という以外の指標が介在しだす。 島本:鈴木さんが連載中のエッセイにも出てきますが、性の現場に限らずとも、飲み会などで場を支配したがる男の人っていますよね。そういう人はみんなを褒めることは絶対しなくて、Aちゃんを褒める一方でBちゃんをいじって、比較してけなしたりする。かわいい子、いじられる子、とその場での女子の役割を決めて盛り上げているつもりなんでしょうけど、そういう“コミュ力”に、女の人たちは傷つけられてきたなと思うんです。 鈴木:本来の「コミュニケーション能力」とは似て非なる“コミュ力”。貴戸理恵さんの「コミュ障の社会学」(青土社)などの著作が詳しいです。 島本:「場を回したい」という承認欲求のある男性って、結構いるんだけどあまり言語化されてこなかったので、さすが鈴木さんの視点だなと思いました。  鈴木さんの新刊『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』のなかでも承認欲求については言及されていますよね。「承認欲求系ヤリマンには二種類いて、片方はセックスと愛、平たく言うとヤリたいと思われることとモテることを見紛って、過剰に自信に溢れているタイプ。もう片方は誰といても満たされず、かといって誰かといないともっと満たされず、恋やセックスを貪るように食べるタイプ。当然、前者は無自覚で後者は自覚的であり、前者の幸福観はとても高く、後者のそれは絶望的に低い」。  これは女性の承認欲求に対する分析ですが、「誰といても満たされないタイプ」って男性にもいるなって思ったんですよ。女を混乱させる男ってこのタイプで、自分のことを好きにさせればセックスはしなくてもOKみたいな男もいる。 鈴木:パートナーシップを結びたいわけではないのに、だからといって関係性を切らせてはくれない、離してくれないから女が大混乱して病む、というパターンはたくさん見てきました。自分が好きじゃない人からのいいね!もたくさんほしいタイプなんでしょうね。

男性も満たされてはいない

島本:この描写を読んだときに、私が20代の時に追いかけて書き続けてきた「恋愛と似て非なるもの」の正体はこれだったんだ!と気付きました。10代の時は恋愛について書いていたつもりですが、20代以降は、この「恋愛と似て非なるもの」といかに決別するかが重要なテーマとしてありました。男の人も、自分が何をしたいのか、何が自分を満たしてくれるのかわかっていなくて、砂漠で水を探しているような渇望感を抱えているんだと腑に落ちた。 鈴木:男の支配欲によって女の人が傷つけられている一方、支配している側のはずの男も決して満たされているわけではなくて、堂々と悪意を持っていればこちら側としても裁きやすいですが、むしろどうすれば自分が満たされるかもわからず、右往左往していて滑稽だったりするんですよね。(後日公開の後編へ続く) ●島本理生:83年、東京都生まれ。高校在学中の01年に『シルエット』(講談社)で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。18年『ファーストラヴ』(文藝春秋)で第159回直木賞受賞。高校教師と元生徒の純愛を描いた代表作『ナラタージュ』(角川書店)は、17年に映画化され話題を呼んだ。20年2月には15年に島清恋愛文学賞を受賞した『Red』(中央公論新社)が映画化される。最新刊『夜 は お し ま い』(講談社)が発売中 ●鈴木涼美:83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』(マガジンハウス)が発売中 <取材・文/牧野早菜生 撮影/福本邦洋>
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