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朝ドラ『エール』のビックリ初回が賛否両論。脚本家の降板はなぜ起こる?

名作『おしん』ですら脚本が変更されている

 映画やドラマの制作は、監督(演出)・プロデューサー・脚本担当が中心にそれぞれスクラムを組んで進めていくものです。しかし、その中で影響力に比べて一番力が弱いと言われるのが脚本担当です。どんなにシーンを丁寧に描いても尺や演出の都合で内容を変更されたり意向が反映されないことがしばしあると言います。  3月末までBSプレミアムで再放送され、大きな反響を巻き起こした『おしん』。この作品の脚本はかの有名な橋田壽賀子氏ですが、シナリオ集と見比べると、その台詞やナレーションの多くが放送でカットされていることがわかります。
(画像:連続テレビ小説 おしん 完全版 少女編[DVD])

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 橋田氏の脚本は長台詞があることで有名です。尺の問題や演出や制作側の都合上、場面を変更されたりカットされることは仕方のないことでしょう。  脚本のあまりの長さに、短くするよう演出スタッフに指摘された橋田さんは「私ね、書きたいことを書かないとダメなんです。後は勝手にしてください」と言い、演出サイドはカットする作業に大変苦慮したとか。

脚本に修正が入るのは普通のこと

 橋田氏は執筆当時も既に朝ドラや大河ドラマを手掛けていた実力派脚本家です。それでもどこかしらは作者の意図から離れたカットや演出が必要となるものなのです。  一文字一句削られることを嫌う脚本家もいれば、自分の書いたものに一切反論を受け付けないことなど条件に執筆を引き受ける脚本家もいますが、それはヒットメーカーや大御所にのみ許されること。尺や演出上の制約がある以上、必ずどこかしら制作サイドや演出の意図が入ってしまうものです。
 ある中堅のシナリオライターは言います。 「いくつかの直しを経て決定稿になっても、完パケや放映をみたら力を入れた台詞が書きかえられていたり、書いていなかったナレーションが入っていたりしますね。プロット(あらすじ)を他の誰かが書いていて、自分は脚本に起こすだけということもあります。  つまり、脚本は全て脚本家が書いているわけではないんです。手が加わった結果、視聴者に伝わりやすくなって、高評価になることも多いのですが、『脚本がいい』と自分だけの手柄のように言われると複雑な気持ちになります」  ドラマでは、ストーリーがよければ脚本に大きな評価が向きがちです。反対に視聴率や内容が悪ければそれがどんな演出であっても脚本が悪いと言われることもしばしば。たしかに一理ありますが、脚本家にはそれだけ責任が重くのしかかってくるのです。  だからこそ演出にカットを委ねた橋田氏のように、制作サイドと信頼のおける関係であることが、素晴らしいドラマを生むことに一番必要なことなのではないでしょうか。  ゴタゴタやオープニングに賛否がありながらも、上々の出だしとなった『エール』。仕切り直したことが功を奏し、これから私たちの朝を爽やかな展開で彩ってくれることを願います。 <文/小政りょう>
小政りょう
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
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