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お母さんは買えるのか――世界で認められた日本人監督がスラムで見たもの

 日本人として初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を受けた長谷井宏紀監督による映画『ブランカとギター弾き』。  自身にとって初の長編にもかかわらず第72回ヴェネツィア国際映画祭マジックランタン賞、そしてジャーナリストから贈られるソッリーゾ・ディベルソ賞を受賞した同作は、YouTubeで発掘した主役の少女以外、キャストのほとんどが実際にスラムで暮らす人々、という意欲作です。
『ブランカとギター弾き』より

ブランカ役のサイデル・ガブテロは“YouTubeの歌姫”として国内外で注目を集めていた/『ブランカとギター弾き』より

 舞台は、マニラのスラム。路上で暮らす孤児の少女・ブランカはある日、同じく路上で生きる盲目のギター弾きと出会います。互いに寄り添い穏やかな日々を送る二人。でも、やがてスラムの厳しい現実に翻弄されていきます。  世界中を旅しながら写真家としても活動する長谷井監督がなぜこの映画の製作に至ったのか。本作にかける想いを聞きました。
長谷井宏紀監督

長谷井宏紀監督

「お母さん」を買うことができるのか

――この物語は、盗みや物乞いをしながら路上で生活する孤児の少女ブランカが、「お母さんをお金で買う」ことを思いつくことから始まっていますが、児童の人身売買を逆手にとったような発想が新鮮です。 長谷井:僕たちはお金でほぼすべてが解決すると知っています。「お金ってなんだろう」と考える余裕すらないじゃないですか。作って捨てる、作って捨てる、をばんばん繰り返す消費サイクルが激しい現代の社会で、「お母さんがお金で買えるのかな」とふと思いつきました。
『ブランカとギター弾き』より_2

『ブランカとギター弾き』より

――ストリートチルドレンや人身売買といったテーマが盛り込まれている社会的な作品ともいえますが、とても温かく前向きな映画に仕上がっているのが印象的でした。 長谷井:ショッキングな内容をショッキングに描いたら、ショッキングじゃないですよね(笑)。最近はニュースさえも、恐怖の餌をまいて購買につなげる風潮があります。僕はただ、自分が楽しんで撮影したいんですよね。映画に費やす時間は意外と長いから、自分が楽しめる作品にしたかったんです。
『ブランカとギター弾き』より_3

『ブランカとギター弾き』より

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この作品はピーターとじゃなきゃ作れなかった
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