また、小説集『ピュア』には、この他にも多様な「性」と「生」の物語が綴られている。
「バースデー」は、ある日突然男に「変身」した親友と、変化に戸惑いすれ違う高校生の青春の記録。傷つけ合う不器用な2人が、優しく温かく描かれる。
「To The Moon」は、「月人」となった友人と思い出をなぞりながら、主人公が過去と向き合い、決断する物語。つらく壮絶な過去の描写とラストの美しさのコントラストが印象的だ。
「幻胎」では、父への復讐のシーンに息を飲むだろう。
小野美由紀が描くキャラクターは、瑞々しく、切実で、強烈な自我を持っている。彼女たちの強くしなやかな物語を読み終えた時、以前よりも女であることに誇りを持てるかもしれない。
小野美由紀「傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった 」(幻冬舎文庫)
ちなみに、作者のエッセイ「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」では、母親との関係や自意識と戦いながら自立していく過程を描いており、もがき苦しみながら自分と向き合う「ピュア」の主人公たちに作者の姿が重なる。本作と併せて読んでみると、感慨がより深まるはずだ。
<文/藍川じゅん>
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80年生。フリーライター。ハンドルネームは
永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。