
原作:こだま 著:ゴトウユキコ『夫のちんぽが入らない(2) 』(ヤンマガKCスペシャル) 講談社
漫画版「おとちん」の主人公・さち子と夫・慎さんの濡れ場も、もちろんエロい。しかし、つらい。
オイルを使っても大量に出血してしまい、行為の間は痛みに耐え続けなければならないさち子。仕方なく手や口を使う様子を、原作者は「農作業」に例えている。
荒れた大地から生えたしなびた男性器を口に咥えるさち子と、力なく水を撒く慎。漫画版では、見開きで大きく「人間不毛地帯」と書かれた看板が置かれ、体を繋げることができない2人の深い悲しみが表現されている。

原作:こだま 著:ゴトウユキコ『夫のちんぽが入らない(1) 』(ヤンマガKCスペシャル) 講談社より
そして、担任していた小学校のクラスが学級崩壊し、体も心もボロボロの状態まで追い詰められたさち子は、出会い系の男たちと求められるがままに関係を結ぶようになる。
再び悲しい濡れ場が続くのかと思いきや、出会い系のおじさんたちのエピソードが非常に面白く、悲壮感のないドライな描写でグイグイと引き込まれる。
ウエストポーチが驚異的にダサい「生理的に無理」の塊のようなおじさんの笑顔には、思わず爆笑してしまった(なんとおじさんはグッズ化もされている)。

原作:こだま 著:ゴトウユキコ『夫のちんぽが入らない(3) 』(ヤンマガKCスペシャル) 講談社より
また、山頂で射精する「有原さん」というおじさんが、さち子の口にきんつばをねじ込み、口移しで食べるシーンは、息を呑むほどエロい。
原作者の冷静さと作画の線のいやらしさが、これほどドハマりする作品は珍しいのではないだろうか。こだま×ゴトウユキコの組み合わせの妙といえよう。
4巻でさち子が参加するバスツアーのシーンの演出も最高だ。
最終話で描かれるのは、「単行本を出版した後のさち子と慎さん」だ。同人誌に寄稿したエッセイが書籍化されたものの、夫に「知らないままでいて欲しい」と願うさち子。しかし、一緒に観ていたテレビ番組で自著が紹介されたその時、慎さんが口にした言葉は―。

原作:こだま 著:ゴトウユキコ『夫のちんぽが入らない(5) 』(ヤンマガKCスペシャル) 講談社より
出版後の緊迫した展開は、原作にはもちろん描かれていない。あまりにも自然な流れなので、てっきり文庫版のあとがきやエッセイ『ここは、おしまいの地』に後日談として書かれているのかと思ったが、なんと漫画オリジナルのストーリーだった。さち子と慎さんの人物像を約2年にわたって丁寧に描いてきたからこそ、説得力のあるオリジナル展開となっている。
「普通じゃなくてもいい」と声をあげる決意をしたさち子の顔が、今までのどの表情よりも凛々しく美しく描かれる。
ゴトウユキコから原作者・こだまへのリスペストとエールを感じさせるいいラストシーンだ。

原作:こだま 著:ゴトウユキコ『夫のちんぽが入らない(5) 』(ヤンマガKCスペシャル) 講談社
最終巻を読み終えたら、必ずブックカバーを外してみて欲しい。そこには、さち子と慎さんを見守り続けたゴトウユキコの優しい祈りが込められている。
<文/藍川じゅん>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは
永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。