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がんの夫が旅立った日、妻が最後に“思わずかけた言葉”とは

私の腕の中で……ついに訪れた臨終の瞬間

 医師が来て、痛み止めの針を入れてもらい、ヘルパーさんにいつも通りに体を綺麗にしてもらいましたが、その時の夫はもうずっとゼエゼエと痰の絡んだ苦しそうな呼吸をしていました。
私の腕の中で……ついに訪れた臨終の瞬間

亡くなる1年前の私の誕生日に撮った写真です。このときは1年後に夫がもうこの世にいないとはリアルには想像していませんでした。

 医師はとりあえず様子を見ようということで帰っていきましたが、午後に訪問看護師の方が心配して家に来てくれることに。吸引しても吸引してもゼエゼエと苦しそうな呼吸をする夫に、看護師さんは「疲れちゃうから息だけでもなんとか……」といろいろな対処をしてくれたのですが、ふと急に夫の表情が変わりました。 「あれ?」と私が言うと、看護師さんが「あ、これはまずいかな……」と言い、夫の名前を呼びました。しかし、一瞬目を開いたものの、そのまますうっと意識が飛んだようになり、寝ているのに体だけで全力で呼吸をしているような動きをするようになったのです。

旅立つ夫にかけた最後の言葉

 看護師さんは「疲れちゃったんだね……」というと、私に夫を預け、静かに床に正座しました。私は、ついに夫は旅立つんだと感じ、何か素敵なことを言おうかと考えましたが何も思い浮かばず……。出た言葉は「もう無理しなくていいよ」でした。 旅立つ夫にかけた最後の言葉 今までいっぱい苦しい治療や痛みに耐え、私に温かい愛をくれた夫に、「ありがとう」とか「愛してる」とか、ドラマのようなセリフは言えませんでした。ただひたすら、もう楽になってほしいという気持ちでいっぱいだったのです。  ついに体の動きが弱くなり、呼吸をしなくなった夫。私の腕の中で、息を引き取りました。  その日は2月だというのに温かく穏やかな日で、夫の体にはやわらかな日差しが降り注いでいました。ずっとずっと「いつ亡くなるんだろう」と思い続けていた毎日でしたが「今日だったんだね……お疲れ様でした」と声を掛けながら、看護師さんとともに夫をベッドにそっと寝かせ、手を合わせました。  すると、昨夜握ってくれたあの強い感触がふと手によみがえってきました。あのときどんなに苦しい約束をさせてしまったのか……。そう思うと、とてつもなく切ない気持ちがこみ上げます。  骨ばったあの手の感触は、私にとって一生忘れられないものになりました。
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闘病生活を終えて感じたこと
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