29歳になった。この年齢になると、周囲の友人はたいてい結婚していて、家事に追われていたり、会社の中でそれなりの立場で、自分の居場所を確立しはじめている人が多い。
髪をしばり、きりっとした彼女たちの姿を見るたびに、当時一緒に大切にしていた何かが彼女たちの中ではすっかりと入れ替わっていることに、いやでも気づかされた。
「地に足をつけて」という言葉がぴったりだと思う。誰もが何かを悟ったように、それぞれの永久の地を見つけようとしているように見えた。家族、何年も苦楽をともにしたパートナーや仕事。
私自身、そうだった。なんとなく落ち着いた日常の中で、ようやく手に入れた幸せと一緒に過ごしている。
毎日が儚い幸せの連続で、その先には想像のできる未来がある。繰り返される毎日を連続再生していけば、そこには平凡な死があって、そしてその死にむかう毎日に、苦しみがあるわけではない。
29歳。その年齢は確かに、それぞれのライフスタイルが定まり始めるタイミングなのではないかと思う。「29歳なんてまだ若いじゃない」と言われることも多い。だけど、私の体は着実に老いへと向かっている。
ある日は肌の質感が変わったことに気づく。
化粧水が入らなかったり、少し蚊にさされただけで、シミになる。
きめ細く張っていた肌が、少しずつ重力に忠実になっていく。
腰が痛い。徹夜ができない。油っぽいものをたくさん食べられない。
毎日毎日少しずつ着実に老化しているのを感じて、それが恐ろしくてときどきパニックになった。とくに私は長い間女を売ってお金を稼いでいたわけで、
その価値がなくなっていくのを肌で感じることは、末恐ろしいものだった。