Lifestyle

別居中の妻に子を奪われ、月26万の婚費を払う男性がそれでも妻を恨まない理由

「わが子をわが手に留めておきたい」という気持ち

 取材を終えようとすると、谷口さんが再び口を開いた。 「これだけ葉月への恨み言を言っていながら、なんなんですけど、実は僕、心のどこかで、葉月は“被害者”だと思っています。あの毒親から何とかして引き離すことさえできれば、今からでも正常になるかもしれないって」  驚いた。人生を狂わされ、わが子まで連れ去られたのに、なぜそんなことが言えるのか。 「葉月は幼い頃から、母親の精神的支配下にありました。にもかかわらず、たった3度しか会っていない僕との結婚を決意して、単身海外に来てくれたんです。親元を一度も離れたことがなく、実家の街から一歩も出たことがないのに、ですよ? おそらく葉月は、生まれてはじめて一世一代の賭けに出た。これで親から逃げられるかもしれないという望みに賭けた。結果的にそれは『一時的に、義母に泳がされている状態』だったわけですが……。それを思うとね、やりきれなくなるんです」 ※写真はイメージです 谷口さんは「もし、葉月と子供たちを先に帰国させていなかったら、あるいは……」と言いかけた。しかし、あの凄まじい毒親であれば、どんな方法を使ってでも、葉月さんを手元に置こうとしたはずだ。 「わかっています。長年の精神的DVから逃れるのは、言うほど簡単じゃない。信頼できる友達のいなかった葉月が、囚われた精神を自力で解放させるのは無理だったでしょう。あの親を見ていて、つくづくそう思いました」  時おり、ため息が混じる。 「ときどき思うんですよ。『わが子をわが手に留めておきたい』と願う気持ちって、僕も、葉月も、そして葉月の両親も、根本の部分は同じなんじゃないかって。ただ、葉月の両親はそれが強すぎただけなんじゃないかって」  正直、谷口さんのお人好しさ加減にイラッとした。明子さんとの生活費を10年以上にわたって全額負担し、子供たちを奪った葉月さんに対しても惜しみなく同情する。先ほど谷口さんが口にした「滅私のボランティア精神」という言葉が思い出される。

結婚は2年契約にすればいい

 会計を済ませて席に戻ると、谷口さんは笑顔で「僕がおごるから」と2軒目に連れて行ってくれた。感じのいいバーだ。行きつけにしているという。酔いの回った谷口さんは、また話し始めた。 「十中八九、子供たちの親権は取れないし、再々婚も無理だと思います。これで離婚が成立すれば、バツが2つもついた、養育費を毎月がっぽり払い続けている50前のおじさんですからね、僕は」 「結婚って、なんなんでしょうねえ」と言いながら、グラスをじっと見つめる谷口さん。 「結婚は更新制の2年契約にすればいいと思うんですよ。次の2年も夫婦でいたいなら、継続する。そうでなければ終わり。惰性の自動更新はなし。……そうだ、これは夢なんですけどね」  谷口さんは顔を上げ、視線を斜め上に向けた。 「60歳を過ぎて、子供はいないけど子供は育てたい、比較的財力のある男がいたとします。そういう男が、同じ気持ちの別の男と共同でね、やむを得ない事情で親が育てられなかった子供を引き取って、ふたりで育てればいいと思うんですよ。恋愛感情でつながった同性カップルということではなく。子育てを目的に組まれた、共同事業のパートナーというイメージです」  その男とは、谷口さんの10数年後の姿なのか。 「親の役割を担うのは、異性同士でも同性同士でも、1人でも2人でも3人でもいいと思うんです。経済的にも、時間的にも、精神的にも、育てられる余裕のある人が育てればいい」  いいじゃないですか、と相槌を打った。 「育ての親を選べなかったかわいそうな子供たちが、世の中にはたくさんいるんですよ。私の娘たち、そして葉月も、そのひとりです」 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。 【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
1
2
3
4
Cxense Recommend widget


あなたにおすすめ