松本氏いわく、ほとんどが“ヤリモク”だという某マッチングアプリの男性たち。それを理解していてもなお、行きずりの異性との人肌の温もりでなければ癒やせない孤独や寂しさがあるというのが、本作が描き出す主題のひとつだ。
女性同士の絆や友情では満たされないものの正体とは、いったい何なのか。
「同性の友達のほうが当然、心配し合えているし、力になってあげたいと思うのに、不思議ですよね。満たされるものと満たされないものが一体何なのか、私もわかりません。でも、女友達に愚痴って満たされるなら、マッチングアプリで知り合ったよくわからない男を頓服薬みたいに使ってその場を凌ぐ、なんてことはしないと思うんですよ。
絶対的な孤独を忘れるためにするセックスのいいところは、2人同時に心拍数が上がって、その瞬間だけは言葉通り一体となることができること。呼吸の荒れ方、汗、肌の温度で、自分はここにいるんだ、一人じゃないっていうのを共有する人がいるんだと思えるんですよね」
「女性にもまた、異性との人肌の温もりでなければ癒やせない孤独がある」と語る千秋さん
出会うのは難関国立大の学生や、プロのモデル、役者の卵、ベンチャー企業の若手社長などキラキラしたスペックを持つ男性たち。ヤリモクと割り切りながら、どこかプラトニックな関係を期待する「一回一回が疑似恋愛」のデートを重ねることで、青春を取り戻すことはできたのか。
「1年足らずで47人の男性とデートしました。メンヘラホイホイに甘やかされたり、セフレ以下の扱いを受けたり、多種多様な経験をしたのでもうお腹いっぱいです。男性経験の平均的な人数も超えただろうし、気が済みましたね(笑)。若いうちに遊んでおけってよく言うけど、それができなかった分を私はようやくこれで回収できたと思います」
『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』には、そんな松本氏の嘘のような日常が描かれている。一方で、同時期に「ヤングキング」で連載していた『トーキョーカモフラージュアワー』では、リアルな男女のすれ違いを連作形式のショートストーリーで描いた。
「フィクションの『トーキョーカモフラージュアワー』では、みんなが共感できる常識的なあるあるネタを描いていて、事実を元にしたコミックエッセイの方が非常識なんですよね(笑)。
アラフォーって、いろんなことが落ち着いてくるライフステージなので、よくも悪くも知らない人と出会って別れて、強く心が動かされるようなことって日常にはもうあまり起こらないと思うんです。同世代の常識からあまりにかけ離れていて、リアルな友人には話しづらくなってしまった。
でも、『こんな面白い話、一人では抱えられない!』と思って、『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』を描きはじめたんです」
「マッチングアプリでの経験をリアルな友人には話しづらくなっていった」という千秋さん。発表の場を漫画に移したことで才能が花開いた
今は結婚願望はないという松本氏だが、今後もステディなパートナーをつくる予定はないのだろうか。
「あわよくば、とは思ってるんです。出産や結婚には縛られていないので、50歳でも60歳でも『いい人がいれば』とものすごく気長に考えていますね。今は、雑誌の占いコーナーも、恋愛の部分は飛ばします。今週、今月の恋愛運を気にして生活していないので。
どんな人がいいかは、誰か教えてほしいくらい。想像もつきません。一緒に生きていくなら、イケメンかどうかなんてまったく関係ないですし。もしかしたらこの先、女の人と恋愛するかもしれないじゃないですか」
ワンナイトで終わる関係に未練はないが、「どこか自傷の延長だったのかも」と語る松本氏。マッチングアプリ沼の先にある救いも、虚しさも経験したからこその境地がそこにはあるのだ。