それ以来、ヨシエさんはユウキさんの言動がいちいち気になっていく。
「たとえば友人たちと一緒に飲みに行ったときも、彼は弟キャラというかいじられキャラなんですよね。本人もそれが居心地がいいみたいで、その立場にいれば多少のわがままを言っても許されると思っている節がある。だから自分から他人に気を遣ったり思いやったりすることができないんです」
友人のひとりが病気で入院したことがあった。ひとり暮らしだったため、いち早く駆けつけて鍵をもらい、自宅から着替えをもっていった人、足繁く見舞いに行った人、遠方から出てきた彼の両親の案内を買ってでた人など、みんなが協力したのだが、彼は結局、一度見舞いに行っただけ。友人に親身になる気配が感じられなかったという。
「冷たいわけではないんだけど、濃い情がないというか。私とは人間関係の作り方が違うなと、いろいろな場面で思いました」
だからといって離婚など視野に入れてはいなかったのだが、ある日、決定的なことがあった。

昨年のコロナ禍での自粛期間。ふたりとも在宅勤務になったので、一緒に散歩に出た。すると目の前で高齢の女性がふらりと倒れたのだ。
「私はあわててかけつけたんですが、彼は立ちすくんでいる。抱き起こして近くのベンチに運ぶと、彼女は『大丈夫です、ありがとう』って。だけど顔が青いし、大丈夫そうには見えない。
水を持っていなかったから、彼に水を買ってきてと言うと、『大丈夫って言ってるじゃん』と。
それでも水を買ってこさせて飲ませたんですが、やはりおかしい。結局、救急車を呼びました。
行きずりではあるけど、そのままにするわけにもいかず、私が救急車に乗って病院まで行き、救急隊が家族に連絡するまで見届けました。あとからご家族から連絡があって、脳卒中だったそうです。幸い、命に別状もなくて後遺症もなさそうだ、と。
ほっとしましたが、彼は私がひとりで救急車に乗ったことを,『意味ないことするよね』と。確かにそうかもしれないけど、私はこの人と一生、一緒に歩いてはいけないと感じたんです」