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がん患者に「かわいそう」と言わないで。乳がんになってわかった“傷つく言葉”

つらさを最初に言語化できた意外な場所

――藍原さんが言葉にできた第一歩は? 藍原:占いです。 ――手術後、体調不良があり、そのうえ再発の不安に襲われていたときですね。 藍原:当時、結構頻繁(ひんぱん)に診察に通っていて、私の行っていた病院は平均3時間待ちで、4時間になるときもあったんですね。それだけ待って、医師に話を聞いてもらえるのはたったの5分。「変わりありませんか?」「ないです」でおしまい。  この不安な気持ちを、一体どこに言えばいいの? 仕事仲間はもちろん、家族や友達に話すこともできない。医者ともつながれない。当時、閉じていた私は患者会で交流しようとも思えなかった。もう、どこもないじゃないか! って思っていたときに行ったのが占いでした。
占い

写真はイメージです

――占い師には話せた。 藍原:占い師を前に泣きながら堰(せき)を切ったように言葉が出てきて。そこで一回、言語化できたことで、つらさの正体みたいなものが、ぼんやりながら見えてきたんですね。 ――正直言えば、本を拝見しながら「騙されないで!」と思ってしまいました。 藍原:私は占いを肯定も否定もしませんが、ただ、ちょっと高すぎ(笑)。痛い出費でした。でも多分、あのときに占いに行ってなければ言葉にできなかった。自分で望んだ手術で、自分で望んだ治療をして、家族もそばにいてくれるのに、つらいなんて思ってんじゃないよって自分を押し込めたけれど、どうやら、思ってる以上に私はつらいみたいだぞ、と気づくことができた。もちろん、占いをすすめているわけではありませんけどね。 ――整骨院で気持ちがほぐれるシーンもありましたね。 藍原:その整骨院は乳がん患者が多いところだったんです。「旦那が何もしてくれない」「病院が4時間待ちだった」って話をすると、「あなたみたいな人多いのよ」って言ってもらえた。  私は自分から何も言っていないくせに、身近な人に勝手に期待していて、家族が助けてくれるべきとか、友達ならもっとサポートしてくれてもいいのに思っていたんですね。特に夫には、「もっと察して」「わかってよ」、以心伝心みたいなのがあるでしょって。勝手なんですが、そこに共感してもらえて、私だけじゃないと思えたことで、気持ちが楽になったんだと思います。 ――やっぱり、共感なんですね。 藍原:言葉にできたのが占いで、共感してもらえたのが整骨院。その後、精神腫瘍科を受診するんですが、ふりかえると、全部つながっていったんだと思います。

知ってもらいたい、心の専門家「精神腫瘍科」の存在

――「精神腫瘍科」はがん患者の心のケアをする診療科ですよね。その存在はこの本で初めて知りました。 藍原:精神腫瘍科は今、ほとんどのがん拠点病院にあります。ただ、あまり存在が知られていないんですね。コラムで対談させていただいた大西秀樹先生は、埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンターの精神腫瘍科の教授で、大西先生のところでは、他の課で心のサポートが必要な患者さんがいると紹介してくれるらしいですが、そこまでやってくれる病院ばかりではないですし。 ――専門科ができるほど、たくさんの人ががんという病気を抱え、つらい思いをしているということですよね。 藍原:がんになると、うつ病になる人も多いです。通院自体がしんどくなって、がん治療から離れてしまう人もいます。目に見えないところで苦しんでる人は本当にたくさんいて、精神腫瘍科のことは広く知られるといいなと思います。自分のかかっている病院になくても、他の病院の精神腫瘍科にかかることもできます。告知後すぐ、治療方針が決まる前にかかることもできるそうです。
がんの記事を書いてきた私が乳がんに!?

『がんの記事を書いてきた私が乳がんに!? 育児があるのにがんもきた』(KADOKAWA)

――心の専門家に頼るのも大切ですし、とにかく、「つらい」って、SOSは出していい。 藍原:誰にSOSを発信するのかは、人によって違うと思いますが、とにかくためないことが大事。  ただ、そういうとき、「あなたのつらさなんて大したことない」って言う人がけっこういるんですね。でも、絶対にその言葉は言わないでと思います。元気そうにしている人が元気だとは限らない、明るそうにしている人が明るいとは限らないですから。 ――「あなたなんかより」は、つらさを我慢させる圧力になります。 藍原:コロナ禍の今、このフレーズはよく聞かれますよね。SNSでも、すぐに「医療従事者はもっと大変」「もっと大変な人がいるのに」と言う人がいる。でも、そんな言葉、目にも耳にも入れる必要はありません。確かに医師や看護師は大変な苦労をされていると思います。だけど、あなたのやっていることも大変で、みんなそれぞれ大変なんです。 ――「つらいっこ比べ」をして、救われる人は誰もいません。 藍原:人それぞれ、事情や抱えているものは違います。この人、ひょっとしたらつらいかもしれない。そういう想像力をみんなが持つと、社会が……というと話が大きくなり過ぎるかもしれませんが、変わるんじゃないかなと思いますね。 <藍原育子 取材・文/鈴木靖子>
藍原育子
編集者・ライター。出版社に勤務後、04年よりフリーランスに。10年に長女を出産。13年に乳がんを患い、右胸の全摘手術を行なう。インプラントによる再建、5年間のホルモン治療を経て、現在経過観察中。近年は医療系の記事を中心に執筆活動を行ない、がん保険契約者向け冊子などの企画・執筆も手掛ける。Twitter:@aihara_ikuko
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