
米マクドナルドでは’19年、従業員と関係を持ったとして社長兼最高経営責任者が解任された。合意に基づく関係だった
職場恋愛に対して企業のスタンスが異なるのはなぜか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「要はメリット・デメリットのどちらを重要視するか」と述べる。
「社内恋愛のメリットは、好きな人と一緒に仕事をすることで、社員のチームワークとモチベーションが高まり、生産性の向上や忠誠心にもつながることです。また、社内結婚して子育てをする場合、育児休暇を夫婦交代でとることができるので、育児と仕事の両立という点でも有効です。
対してデメリットは、度を越すと風紀が乱れてしまい、最悪のケースは関係がこじれて愛情が憎しみに変わり、セクハラ問題に発展してしまう場合です。昔ながらの家族経営的な大企業ほどメリットを優先し、転職が多いベンチャー企業は、デメリットが目立つといえます」
推奨か禁止かでいうと、どちらになるか? 溝上氏に問うた。
「どちらかといえば、社内恋愛はメリットのほうが大きいと考えます。ただ、上司と部下の場合は注意したほうがいい。セクハラの問題や昇給や昇進に私情を挟んでしまうといったトラブル防止のため、どちらかを異動させるなどの措置を講じたほうがいいでしょう」
このようなリスクがある点から、社内恋愛はセンシティブな扱いになっていくのだろうか。今回、社内恋愛を支援する制度について取材を断られた企業が3社あったことからも予感させる。将来、社内恋愛が禁止される社会になりうるのか?
社内恋愛事情に詳しい文筆家で労働団体職員の西口想氏は次のように分析する。
「企業が従業員の私的生活を制限して、恋愛を完全に禁止することは法的に難しい。恋愛は基本的人権の人格権に含まれるからです。よって、恋愛を禁止するのではなく、セクハラにならないような覚書をつくるかたちになります。
米国では、アンチ・フラタニゼーションという上司と部下の親交禁止のポリシーを持つ企業は多い。背景には、セクハラの損害賠償金額が高額であり、企業のリスクが大きいこともあります。
’19年に米マクドナルドの社長兼最高経営責任者が解任されたのは従業員と関係を持ったから。合意を得たうえでの関係でも認められないのです」