その後、タカシさんの会社で仕事をさせてもらい、アパートも借りた。彼のアドバイスで、弁護士を立てて夫と話し合ったが決着せず、裁判にまでなった。
「最後は、末の息子が『僕はここにいる』と言ったと先方の弁護士に言われたのが決め手で、私はすべて折れました。夫からは300万円もらって離婚して。一度も子どもたちには会っていません」
あれから6年、今年の春、長女と次女がマサコさんに連絡をくれた。コロナがおさまったら会う予定だ。そしてタカシさんとの関係は、今はビジネスだけのつながりになっている。
「タカシさんの奥さんにバレそうになって、ほとぼりが冷めるまでプライベートでは会わないようにしようと言っているうちにお互いに冷めてしまったんです。
でも仕事はさせてもらっているし、私も必死でパソコンを覚え、ようやく少しは役に立てるようになってきましたから、彼には本当に感謝しています」

彼は「あなたの人生をめちゃくちゃにしてしまった」と言ったこともあるが、あの家にいたら今は生きていられなかったかもしれないと彼女は答えた。
「半分本音です。今の私は、娘たちに胸を張って会える自分でいること。
私は娘たちを捨てたわけじゃない。わかってほしいけど彼女たちにもわだかまりはあるでしょう。ああいう家庭の状況があったとはいえ、恋に狂って家を出たのは私。自分で自分が許せないと思うこともあります」
マサコさんが低い声で話すだけに、静かな迫力があった。自分を許せない彼女、そんな母親を娘たちはどう感じているのだろう。そして17歳になった息子は……。
「私を許してほしいとは思っていない。ただ、子どもたちが自分の願った通りの人生を歩めるよう、これから少しでも助けになればと思っています」
恋が人生を変えた。これでよかったのかどうか、彼女が結論を出すのはまだ早いのかもしれない。
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<文/亀山早苗>
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