あの’90年代ガールポップの名曲を憶えてる?【後編】

 7月4日(金)に放送されるフジテレビ系の『僕らの音楽』に川本真琴が出演するとあって話題を呼んでいます。

 今回番組の“僕らのGiRL POP”と題した企画で彼女の出演が実現したわけですが、そんなJポップの黄金期とともに青春時代を過ごした世代がもう30代後半から40代前半ぐらいの年齢になるのでしょうか。今後こうした試みはもっと増えていくのではないかと思います。

 今回出演するのは、川本真琴の他に森高千里、谷村有美、渡瀬マキ、加藤いづみといった面々で、かなり生え抜きど真ん中なガールポップのラインナップと言えそうです。それでも「あの人がいないのはおかしい」とか「あの曲は欠かせない」と思う人もいるかと思います。というわけで、もし“僕らのGiRL POP”続編があるのならば、ぜひオファーしてほしいミュージシャンと聴きたい曲を3組ほどご紹介したいと思います。

⇒【前編】切ないラブソング『午前2時のエンジェル』はこちら

怖いほどシンプルな「唇に」/朝日美穂



 かの香織「午前2時のエンジェル」がリリースされた2年後、最も美しい日本語で書かれたポップスの一曲に数えたいクラシックがリリースされます。朝日美穂「唇に」(1998年)。ジム・オルークも大絶賛したり、川本真琴やもりばやしみほとのユニットでルース・ブラウンをカバーしたりと、ディープな音楽好きからの根強い支持を集める彼女ですが、この曲は怖いほどにシンプルです。

 極めて少ない音数で聴き手を威圧するような瞬間は皆無。あらゆるセクションはクリシェで構成されている。にもかかわらず、この曲は圧倒的な存在感を誇ります。詞の言葉数はややもすると字余りになりそうなところで、ぴったりとメロディと小節の流れにフィットしている。ここがマジックなのです。

<今日も誰か 終わって始まるものの祝いに 声あげて 泣いてたり笑ってたり>

 この歌いだしの長いフレーズが何の違和感も突飛さもなく、幅広い聴き手に「グッドミュージックだ」と思わせる普遍性を持っていることがすごい。“アーティストの個性”だとか“表現欲求”だとかいう浮ついた言葉とは無縁の地力を感じさせます。近年Jポップのヒット曲が音楽の教科書に採用されることも多いようですが、少なくともアンジェラ・アキやいきものがかりのような、歯の浮くような正しさを無理強いする曲よりも、こういう曲を掲載したほうが教育上よろしいのではないかと思わなくもありません。

もっと評価されるべき花*花の「あ~よかった」



 そして最後にご紹介する曲はもしかしたら一番よく知られているかもしれません。花*花の「あ~よかった」(1999年)。もう一つのヒット曲「さよなら 大好きな人」はあの中村とうようも絶賛しましたが、いずれにしろ売り上げに比べてきちんとした評価を得ていないのではないかと思われる二人組です。

http://youtu.be/iePkXHu-r38

 それにしてもこの曲の他愛のなさ、もっと言えば意味のなさは群を抜いています。

<あなたと初めて出逢ってから どれくらいの幸せをもらっただろうね 大きいものや小さいもの 気付かずにいたようなものもあっただろうね>

花*花 あ~よかった この歌いだし4行からして、曲のタイトル一言で言えば済むことです。

 しかしそれを修辞する意欲すら見せずに、ただ「あなたがいてよかったことその1」というように無造作に羅列していく。言葉は積み重なっていくのに、意味はそれ以上に増えない。日本語ならではの芸当だと言えるでしょう。

 さらにその独り言のような詞を日本語のアクセントやイントネーションを崩すことなくライトなコンテンポラリーゴスペルにさらっと落とし込んでいるのですから、これは相当な離れ技です。途中ブレイクが入り英語詞が静かに歌われたあとに、こじまいづみ、おのまきこのツインボーカルがユニゾンで再びコーラスに戻る箇所などはまさしくゴスペルの気持ちよさそのもの。

 サウンドでギターが全く出しゃばっていないところも素晴らしい。キーボード、ベース、ドラムが基礎であることは、朝日美穂の「唇に」と同じ安心感を与えてくれます。

 思えば90年代中ごろから後半にかけて、いわゆるJポップの、特に女性のソングライターによる名曲が量産されていたように思います。まだ思い出せばどんどん出てきそうな気もします。その意味でも、“僕らのGiRL POP”(別にガールポップに限らなくてもよいのですが)は定期的な企画になればいいのになと願う次第です。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>

石黒隆之
音楽批評。ipodに入ってる曲は長調ばかりの偏食家




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